垣根を超えた「競合による共同」 九州地域における青果の共同物流スタート(社会貢献活動レポート|2015年1月)
2015年1月1日
パルシステム連合会、大地を守る会、らでぃっしゅぼーや、生活クラブ連合会の産直宅配を担う4者は、九州地域における青果の共同物流体制を構築し、2014年11月1日より運用を開始しました。物流業界を取り巻く環境が悪化するなか、生産者が安定して出荷できる体制を整えることは、生協の責任だと考えています。
せっかくの野菜が
出荷できなくなるかもしれない
「荷物を引き取りに行けない」「運賃を大幅にアップさせてほしい」――。福岡県赤村にある産直産地、鳥越農園には2013年秋頃から、取引する運輸会社のこうした要請が相次ぎました。「せっかく作った野菜が出荷できなくなるかもしれない」と、代表の鳥越和廣さんは危機感を募らせたそうです。
この数年、九州の物流業界は深刻なドライバー不足に悩んでいます。その要因は、少子化に伴う高齢化と「週に1~2日しか家に帰れない」ともいわれる職場環境です。さらに、ガソリン価格の高騰などが運送コストを圧迫し、運輸会社としても運賃アップが不可欠な状況となっています。
一方、鳥越農園をはじめとする有機農産物などを生産する団体は生産量が少なく、一度に多くの作物を出荷することはできません。こうした「ひずみ」が、集荷拒否や運賃の大幅値上げにつながりました。そこで鳥越さんは、パルシステムの農産を担う(株)ジーピーエスの島田朝彰取締役に実情を説明し、解決策を相談したのです。
農作物の輸送は、産地がコストを負担するのが一般的です。極端にいえば、パルシステムにとっては品質を損なうことなく野菜や果物が届けばそれでいいことになります。「化学合成農薬や化学肥料をできる限り使用しない農作物と、生産者とのつながりは、いわば『産直の生命線』です」と、島田さんは共同物流構築のきっかけを説明しました。
相談を受け、(株)ジーピーエスは九州各地を回って産直産地や運輸会社などから聞き取り調査をスタート。その結果わかったことは、窮地に陥っているのは鳥越農園だけではないということでした。なかには、宅配便を利用せざるを得ない生産者もいたのです。
西宮に中継地点を設け
長距離ドライバーの負担も軽減
九州にある多くの産地で物流の確保が課題となっていることが調査で判明しましたが、パルシステムだけでは解決できません。なぜなら、多くの産地は、パルシステム以外の宅配団体へも農作物を提供しているからです。ほかの宅配団体向けの出荷も一元化できれば数量もまとまり、運輸会社の負担も軽減できるのではないか。(株)ジーピーエスは、生産者、運輸会社と協議を進め、まずは参加する生産者団体を募っていきました。その間、生産者同士のネットワークなどで口コミが広がり、生産者団体だけでなく宅配団体からも参加の打診が届くようになったのです。「競合関係にある関東地区の宅配団体が『九州の生産者のために』という認識から、協力関係になりました」(島田さん)。
九州における共同物流は、パルシステムのほか生活クラブ、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやの4団体によるものです。物流の運用は福岡県の運輸会社、マルゼングループが構築しました。
ドライバーに無理な労働をさせないため、政府は4時間ごとに30分休憩、さらに1日の運転時間は9時間までなど、細かく定めています。これに基づくと、九州から関東まで物を運ぶには渋滞がなくても28時間、平均で30時間程度。往復で4日かかります。そこで新しい物流では、まずマルゼングループが兵庫県西宮市に中継センターを設けました。九州内の各拠点からの荷物を西宮へ集約し、それをパルシステムや大地を守る会などそれぞれの団体の物流センターごとに積み替える仕組みです。これにより、ドライバーは九州から西宮、西宮から関東までと役割分担がなされ、九州と関東を往復する負担軽減になるのです。
安心して出荷できる
体制づくりも生協の責任
九州における青果の共同物流は、新聞やテレビでも報道され、社会の注目を浴びています。物流の業界団体によると「家電や自動車部品などで事例はありますが、冷蔵分野では初めてでは」とのことです。反響も大きく産地、物流、流通の各業界からも、問い合せが殺到。関西の産直宅配会社からは、「共同物流に参加したい」との打診がありました。共同物流を縁に産地と宅配団体が新たに取引を始めるなど、相乗効果も表れています。
また、物流拠点が西宮にあることから、関西や中四国地域の産地からも参加を希望する連絡が届いているそうです。島田さんは「まずは現状ある課題を整理し、九州での運用を安定させることが大切。そのうえで、本格的にエリア拡大ができると考えています」と話します。
人材不足は、九州の物流だけではありません。建設業界では、東日本大震災での「復興特需」や東京五輪開催に伴う首都圏の再整備などの理由から人件費が高騰し、公共工事で予算と入札額がかい離する「入札不調」が相次いでいます。東北や北海道の産地でも、関西以西に青果を送れない例が出てくるなど、近い将来に深刻な状況を危ぐする分析もあります。
少子高齢化も含め人的、経済的な資源が限られていくなか、いかに物流というインフラを確保できるかが、産地をはじめとする地域にとって重要になりつつあります。「農薬削減に取り組む産地の農作物を組合員のみなさんに安定供給するためには、産地から安定して出荷できる体制を整えることも、生協の責任だと思います」と島田さんは言います。「産地のために」と、協同の精神で動き出した「物流共同化」が、社会を変えようとしています。
*本ページの内容は2015年1月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。