パルシステム特別協賛映画『無知の知』公開 原発事故をめぐる、福島の「いま」を伝える(社会貢献活動レポート|2014年9月)

2014年9月1日

2014年10月、パルシステムの特別協賛映画『無知の知』が全国の劇場で随時公開されます。この映画は、東京電力福島第一原子力発電所事故に関わるさまざまな人たちへ、石田朝也監督が敢行したインタビューをまとめたドキュメンタリー作品。パルシステムでは、保養活動などの被災者への直接な支援だけでなく、今回の映画上映をはじめとしたさまざまな形で、被災地のいまを「知る」「伝える」活動を続けていきます。

仮設住宅の菜園前で住民にインタビュー

ドキュメンタリー映画
『無知の知』予告チラシ

事故から2年目に撮影開始
何も変わっていなかった!

福島県での原発事故から3年半が経過しました。東日本大震災の被災地のなかには、すでに復興へ向けて歩み始めた地域がある一方、原発による放射能汚染が深刻で、いまだにがれきの撤去も始まっていない地域もあります。そこには陸上まで流された船、骨組みしか残っていない建物――震災直後の報道で目の当たりにした光景が、いまでも残っています。

いまだにがれきがそのまま残る深刻な汚染地域

「初めての撮影で福島県に向かう道中は『いまさら行ってどうなるだろう』と自問しながらでした。しかし、何も変わっていない光景に衝撃を覚えました」と、ドキュメンタリー映画『無知の知』の石田朝也監督は振り返ります。

映画の撮影を始めたのは、2013年4月でした。きっかけは「事故から2年が経過し、震災や原発事故に対し『何もしなかったことに対する罪悪感』のような感情が起こったこと」と言います。

撮影当初に訪れた南相馬市小高地区や富岡町の光景は、想像をはるかに超えたものでした。罪悪感と自問を抱えながら到着した地は「何も変わっていなかった」。その衝撃は、「『全然遅くないんだ』という実感と同時に『もう後には引けない』という覚悟に変わりました」。

石田監督は避難したみなさんが生活する仮設住宅を訪れ、インタビューを試みます。しかし、住民が快く応じるはずもありません。石田監督は「カメラを向けられるたび、つらい目に遭っていた人たちだったからです」と、その理由を語ります。

避難生活者の心の傷
知りながらあえて「中立」に

避難生活が始まってからというもの、仮設住宅に住むみなさんには、幾度となく報道機関からの取材がありました。しかし、伝えたいことを話しても、報道では別の話題に対するコメントを取り上げるばかり。そのうち、報道関係者が仮設住宅を訪れることも少なくなりました。

石田監督は、何度も通ううちに、こうした怒りや寂しさに触れ、「映画の制作が終わっても会い続けよう」と決心します。

「いくら会って話を聞いても、避難するみなさんに成り代わることはできません。安易に知った気になることはやめよう、知らない者だからこそ体当たりしていこう、そんな想いで撮影に臨みました。それが、映画のタイトルにもなっています」。

石田監督は、被災した人々だけでなく、事故当時の政府関係者や日本に原発導入を推進してきた人たちからも、話を聞いています。そして、その人たちに対しても石田監督は、中立的な気持ちで臨むことを心がけました。

「理由は、かつての自分のように『何も知らない』人たちが、いまも多くいるからです。ときには、仮設住宅を訪問した数時間後に、元政府関係者と会うこともありました。避難生活を送る人への気持ちを抑えて心をニュートラルにするのは、苦しかったですね」(石田監督)。

映画では、原発事故前のくらしに戻りたいけれども戻れずに避難生活を送る人の姿や、事故直後から対策に追われた政府関係者の証言、それでも原発の必要性を語る研究者の主張など、さまざまな側面が映し出されています。石田監督は「原発事故を忘れてしまったような人に、先入観なく見てほしい」と期待します。

『無知の知』では、帰ることができないことをわかりつつも、いつ帰っても生活できるよう、一時帰宅時には家を掃除する避難者の姿が映し出されています。その一方で、不可欠なエネルギーとして、いかに原発が必要かを力説するシーンもあります。「脱原発」と「原発推進」の間に悩む人々の声も聞こえます。

石田監督は「結局、頭の片隅にあった混とんが整理されることはありませんでした。悩みは深くなるばかりです。映画を見て、いまの福島について、原発について知り、考えるきっかけになってくれれば」と話します。

仮設住宅での生活も3年――

菅直人元首相に話を聞く石田監督

パルシステムの支援活動

パルシステムでは、映画『無知の知』の特別協賛だけでなく、震災や原発事故での支援を継続して実施しています。そのひとつが、福島県内で生活する子どもたちを一定期間、放射線量が比較的低い地域で過ごさせる「保養活動」です。

福島県内では、政府の定める避難指示区域以外でも、比較的放射線量が高く、子どもの被ばくが心配される地域があります。こうした地域では、さまざまな事情で居住しなければならない家庭も少なくないのが実情です。

子どもの健康を守るため、パルシステムでは「福島のこどもたち保養プログラム」を実施しています。2013年は、グループ全体で15回開催、計539名が参加しました。2014年も、組合員のみなさんへポイントカンパを呼びかけ、継続した活動をめざしています。

今年4月、山形での保養にて

パルシステムではこういった被災者への直接的な支援だけでなく、今回の映画上映をはじめ、さまざまなかたちで、「知る」「伝える」活動を続けていきます。

※【無知(むち)の知】:自らの無知を自覚することが真の認識に至る道であるとする、ソクラテスの真理探究への基本になる考え方。

*本ページの内容は2014年9月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。