農業だけにとどまらないくらしへの影響 パルシステムはTPP参加に反対します(社会貢献活動レポート|2013年5月)

2013年5月1日

安倍首相が、TPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加を決めました。一方で「そもそもTPPって?」と、首をかしげる人は少なくありません。
推進派の人々は「関税が下がり貿易が自由化され、輸出が増え、経済的メリットがある」と主張。一方、反対派は「農業が崩壊し地域が疲弊する」と話します。パルシステムは2011年に政府が交渉参加の方針を表明して以来、反対の意思を表明してきました。
パルシステムは農業を守るためだけにTPP参加に反対しているのではありません。TPPは都市に住む人々にも大きな影響をおよぼす可能性があるからです。パルシステムと協力し、TPP反対を呼びかけるアジア太平洋資料センターの内田聖子事務局長を取材しました。

2012年4月24日、内閣府にTPP交渉反対の署名5万5,948筆を提出するパルシステムグループの役員

アジア太平洋資料センター
内田聖子事務局長

知らされてないのだから
「わからない」は当たり前

「TPPが抱えるいちばんの問題点は、私たちが『知らない』『知らされない』ことなのです」と、アジア太平洋資料センターの内田聖子事務局長は話します。参加国には、交渉の内容を外部に漏らしてはならないという守秘義務が存在します。「だから、交渉に参加していない日本では、政府も国民も詳しい内容は知らされていないのです」(内田さん)。
そのため、反対する人々はまず、交渉内容を含めて情報公開を求めています。 「まずは参加すべきか、そうでないかを判断できる情報が必要だということです。国のことを国民が決められないということが、まず異常ではないでしょうか」と、内田さんは指摘します。

全員の意見を尊重し、話し合って決めるのが民主主義ですが、それすらかなわないTPPの交渉ルールは、それだけでもきな臭さを感じざるを得ません。

TPPが関係あるのは
農業と自動車だけではなかった!

TPPは、自動車や農作物などの貿易だけでなく、医療などのサービス、投資を加盟国間で自由に参入できるようにすることをめざす協定です。さらに、特許をはじめとする知的財産権や食品規則など、国が決めてきたルールを統一しようという話し合いが進められています。

農業にとどまらない地域への影響―TPPで何が変わる?

米や乳製品などの関税が自由化されれば、農作物に対し多額の助成金を支払っている国々からの輸入が増大します。
ある政治家は「GDPのたった1%」と発言しましたが、農業が支える経済は生産物だけではありません。産品を加工する製造業、各地へ運搬する流通業、消費者へ提供する外食産業や小売業と、さまざまな影響をおよぼします。
工場が原料を求めて海外へ移転すれば、それだけ地元の雇用は減少します。そうなると、農業を営む地域全体が沈下していきます。「輸出できる強い農業を標ぼうしたり、『聖域』を定めたりする主張も耳にしますが、度し難い影響が予想されます。

「自由化」が進むほど
「知る自由」は狭められる

では、TPPに加入すると、私たちの生活や社会はどう変わるのでしょうか。

農業や食品分野では、日本が先日、米国からの牛肉輸入規制を緩和したことは、TPP加入の前提とも言われています。また、加工食品の原産地表示や遺伝子組換え作物を使用した際の表示の規制、農薬使用のルールなども交渉の対象になるとも伝えられています。これまで、消費者や生産者が安全な食べものを確保するために築き上げてきた制度が、「自由化」とともになくなってしまう可能性があるのです。

それはつまり「商品の質」を高める努力は認められず、一方的に決められた基準さえクリアすれば、「安ければいい」という社会となります。消費者は、価格と見た目だけで判断するしかありません。 そうなると、添加物などを使用して外見だけ整えられた低価格な食品が選ばれやすくなります。消費者にとっての「知る自由と権利」を狭めるのが、TPPの求める「自由化」でもあります。

食料、水、医薬品…
途上国は「生きる権利」まで

このほか、医薬品では割安なジェネリック品を製造できない、もしくは、製造できても、多額の権利使用料を支払わなければならなくなる可能性も指摘されています。「日本はまだ国民に経済力がありますが、途上国の人々にとっては大きな問題です」(内田さん)。

さらに途上国が抱える深刻な問題は「水」です。いくつかの国では、水道事業を民間企業が担っています。日本では、なんらかの事情で水道料金が支払えなくなっても多少の猶予がありますが、これらの企業は、即時に供給を止めてしまうそうです。TPPではこうしたルールが、すべての国で通用してしまう危険があります。

食料、医薬品、水は、人が生きる上で貧富にかかわらず必要なものです。「これらは、携帯電話と同じような感覚で『支払えないから与えない』というわけにはいかないのです」と内田さんは、各国の事情を紹介します。「選択する情報の幅が狭められていくなかで、地域が崩壊し、いつのまにか、いろんなレベルで格差が広がっていく。『生きる権利』が侵されかねないのが、TPPに加入した場合の未来です」。

震災と異なり、見えないTPP
組合員との接点で呼びかけて

TPPへの加入に向けて政府が準備を進めるなか、内田さんは、パルシステムをはじめとする生協にそれを止める役割を期待しています。
「震災による復興支援などと比べると、TPPは目に見えないので伝えづらいし、わかりにくいかもしれません。その意味で、配達などを通じて日常でコミュニケーションがとれる生協は、地域との接点を活用してほしいと思います。小さくてもいいので、勉強会などの集まりを重ねてほしいですね」。
配送の現場では、「なぜTPPに反対しているの」という言葉を聞くことも少なくありません。「配送スタッフのみなさんには、そういうときこそ『いっしょに勉強しましょう』と声をかけてほしいです! 学習会と聞くと堅苦しいですが、映画や冊子など、わかりやすいツールも多くありますから」。

パルシステムではこれまで、産直をはじめ多くのつながりをつくり、大事にしてきました。TPPは、それらのつながりを壊しかねない協定と考え、加入に反対しています。人のつながりがつくる温かなくらしを続けるために何をすべきか、今こそいっしょに考えてみませんか。

 

パルシステムのTPP反対活動

反対署名5万5,948筆を提出

2011年10月から、組合員のみなさんへ「TPPへの参加に反対し、日本の『農林水産業』の再生を求める署名」活動の協力を呼びかけてきました。その結果、5万5,948筆の署名が寄せられました。署名は、内閣府へ提出し、交渉内容の情報開示と交渉参加の中止を求めました。

「オール北海道」と連携した要請行動

北海道庁や北海道議会、北海道町村会、JA北海道中央会、北海道農民連盟、北海道経済連合会、北海道生活協同組合連合会、北海道漁業協同組合連合会など、自治体、農林漁業、経済、消費者の「オール北海道」で構成される「北海道農業・農村確立連絡会議」とともに、政府、与党へ要請行動を実施しています。

「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」への参加

生協などの消費者団体、農業団体、医療団体などで構成する「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」に参加しています。これまで集会の開催や新聞への意見広告掲載などを通じ、TPP参加反対を訴えています。

「STOP TPP!! 市民アクション」への参加

内田さんが事務局長を務めるアジア太平洋資料センター(PARC)をはじめとする市民団体とともに、「STOP TPP!! 市民アクション」に参加しています。これまで集会の開催や情報共有などを通じ、TPP参加反対を呼びかけています。

*本ページの内容は2013年5月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。