都内小学校で300回開催 パルシステム東京「お米の出前授業」(社会貢献活動レポート|2012年12月)
2012年12月1日
「100万人の食づくり」運動の一環として、2008年から本格的にスタートした、自宅で稲を育てる「バケツ稲」。教科書や映像だけで見ていた米作りの過程を目の前で感じられることから、学校や幼稚園の教材としても年々引き合いが増えています。「収穫したお米はどうやってごはんになるの」――。そんな疑問に答えるため、各地の会員生協では「お米の出前授業」を開催。産地の農作業を紹介したり、収穫を終えた学校には、稲の脱穀、もみすりをして玄米になるまでを体験してもらい、米作りの苦労や喜び、食の大切さを学んでもらっています。
なかでもパルシステム東京は2012年度、都内の小学校を中心に約300回の出前授業を予定。精力的に活動しています。
稲を玄米にするまでを体験
「えっ、たったこれだけ?」
板橋区内の小学校で、5年生およそ30名が参加して行われた出前授業。前半は田んぼと米作りについて映像とともに説明し、後半は刈り取った稲の状態から脱穀、もみすりをして玄米にするまでの作業を体験します。
体験学習では、稲を指でつまんでもみを外し、すり鉢にもみを入れ、軟式野球のボールとこすり合わせることでもみ殻を取り、玄米にしていきます。玄米ともみ殻に分かれたすり鉢の中に軽く息を吹きかけると、比重の軽いもみ殻は外へ飛ばされ玄米だけが残ります。子どもたちも当初はもの珍しさからにぎやかでしたが、もみすりして玄米ができるようになってからは表情が真剣に。それでも、1回でできる玄米の量は「ひとつまみ」程度。ようやくできた玄米の量を見て、「たったこれだけ?」とがっかりしつつ、次の「ひとつまみ」作りに取りかかっていました。1時間半の作業でも、小さなおにぎりが1つできる程度の量しかできません。
「日ごろ食べているごはんがどれだけの手間ひまをかけて作られているか、子どもたちも身をもって感じることができる授業でした。ごはんに限らず、ほかの食材にも想像を広げてくれれば」。授業を担当する教員の1人はそう話しながら、自らももみすりに熱中している様子です。
できあがった玄米は、炊飯器を用意して試食するケースもありますが、放射能の影響に対する保護者の心配もあるため、それぞれの学校に任せています。それでも、玄米を見て「どうやったら食べられるの」と声を弾ませながら質問してくる子どもは少なくありません。「本当は炊飯器を使って炊き上がりまで見せてあげたいのですが」と、担当のパルシステム東京・中司智晴さんは残念そうに話します。
総合学習から社会科までさまざま
「カタログを見て」問い合わせも
こうしたお米の出前授業は2010年、「100万人の食づくり」運動の一環でバケツ稲を学校などへ提供したことがはじまりです。「せっかくなら授業も」という学校側の要望にこたえるかたちで江戸川センターが出前授業を行うようになり、その評判が教員や組合員のクチコミなどで広がりました。
そこで2012年度、パルシステム東京は出前授業を推進するチームを立ち上げます。スライドを使用した座学から、稲わらによる脱穀、もみすりの体験学習を学校が希望する授業時間に対応できるようにパッケージ化。都内1287校の公立小学校へ案内しました。当初はその後、国立や私立の小学校にも案内するつもりだったのですが、問い合わせ数が想像以上に多く、送付することができなかったほどです。
また、8月1回の産直通信・都県版でも掲載。「教員のみなさんにはパルシステムの組合員も多く『カタログを見た』と問い合わせてくれる学校も少なくなかったですね」(中司さん)。
センターとの連携は不可欠
地域とつながるきっかけに
出前授業の問い合わせ総数は200校以上。複数回開催している学校を含めると、累計開催回数はおよそ300回になります。ときには午前と午後に別の学校へ赴き、授業を実施することも。「子どもたちはエネルギッシュですから、1日に2回行うと、もうぐったり。先生のみなさんの苦労が分かりますよ」と、中司さんは苦笑します。
対象は、学校の社会科に「稲作」が組み込まれている小学5年生がほとんど。ただし、実際に授業を行う科目は社会科だけでなく「総合学習」「家庭科」と、学校によりさまざまです。校内に田んぼを設置している学校では、4年生の3学期に出前授業を実施してもらい、次年度の社会科に生かそうというところもあります。当初は事前に学校を訪れ、担当教員と打ち合わせをしていましたが、最近は、問い合わせが急増したことで、電話などで事務的な打ち合わせを行い、そのまま当日を迎えるようになっています。「〝地域に貢献する〟という意味では、エリアを担当する配送センターの職員も同席してもらいたいのですが。そのあたりは今後の課題ですね」。
ただし、配送センターなどとの連携がないわけではありません。授業で使用する稲わらやボウルといった荷物は、パルシステムの物流網を利用し、営業用の車両などによって学校まで届けられています。授業終了後の荷物引き取りも同様です。「実は自前で車両をリースして各地を回るほうが効率的ですが、荷物の手配をお願いすることも、配送センターに『今日はうちのエリアで授業があるのだな』と、認識してもらえますから」(中司さん)。ちょっとした接点でも、今後の地域とのつながりを期待しています。
「給食食べるようになった」
食育にも好影響
出前授業を実施した学校からは「来年も行いたい」という要望が少なくありません。子どもたちからは「家にもってかえって食べたら、すごくおいしかったです」「これからは1つぶ残さずごはんを食べます」などの手紙もたくさん届いています。「授業で体験しているのは農業ですが、子どもたちは『食べること』そのものに思いを馳せてくれているようです。『児童が給食を食べるようになった』などの感想をもらっており、食育の手助けにもなっていると感じています」(中司さん)。
農地の少ない東京は特に、農業に触れる機会がそれほどありません。それは、子どもだけでなく教員も同じ。経験がなければ伝える内容も限られてしまいます。パルシステムは産直を通じて、職員一人ひとりが産地の苦労や工夫を学び、食べることの意味を考えています。その意味では、出前授業は、これまでの取り組みを、視点を変えてアウトプットしていると言えます。地域に新しい役割が果たせるのではないでしょうか。
*本ページの内容は2012年12月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。