取り戻そう! 「東北産」への信頼 JAみどりの 対策の日々を追う(社会貢献活動レポート|2012年6月)
2012年6月1日
東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、パルシステムの産直産地では汚染対策を積極的に続けています。ひまわりや菜種を使った実験のほか、放射性物質を作物に吸収させない農法の研究、なかでも、カリウムを含む農業資材の使用は、セシウムを吸収しにくくする効果のあることがわかってきました。宮城県JAみどりのでは、2011年産米の検査結果は「不検出」でしたが、全生産者にカリウム含有の高い鶏ふん焼却灰や、塩化カリウムの使用を義務付けるなど、今年の米づくりのために、積極的に対策を進めています。現状を取材しました。
震災直後は復興だけで精一杯
「『震度6弱』はこれまで何度も経験したけれど、3月11日の震度6強はまったく別物でした。当日は家で仕事をしていたのですが『あ、(家が)崩れる』と直感しましたもの」と米生産者の齋藤鈴男さんは振り返ります。幸い齋藤さんの自宅は倒壊を免れましたが、米栽培と同時に営む養豚の豚舎が傾くなどの被害を受けました。豚舎は現在も応急処置を施しただけで、悪天候に見舞われると、倒壊を心配する毎日を送ります。
齋藤さんが米を出荷するJAみどりの(みどりの農業協同組合)は、宮城県石巻市に隣接する涌谷町(わくやちょう)、美里町(みさとまち)と大崎市の一部をエリアとしています。このエリアは、東日本大震災では、海に面していないため津波の被害はなかったものの、震度6強というきわめて強い揺れを記録しました。JAみどりのは本所が立ち入り禁止、米倉庫は保管中の米が荷崩れを起こすなど、大きな被害を受けました。
長期間にわたった断水や物流断絶。必死に続けられる復旧作業のなか、放射能を心配する余裕はなく「『まさかここまで飛んでいないだろう』という感覚でした」(JAみどりの職員の齋藤秀市さん)。
「10ベクレル未満」へ
全生産者が土壌対策を実施
しかし、稲の出穂を控えた2011年7月。社会の意識が「震災復興」から「放射能」へと一気に転換します。セシウムを検出した牛肉の原因が飼料の稲わらだったことが判明したのです。稲わら産地は福島県から岩手県まで広範におよんでおり、これまで「心配ない」とされていた地域が含まれていたことから、社会的な関心は急激に高まりました。「後日、保管方法などが原因だったと分かりましたが、心配する声が収まることはありませんでした」(JAみどりの職員 齋藤さん)。
こうした不安のなかで行われた収穫。結果は、パルシステムの自主検査でも「不検出」でした。しかし、JAみどりのでは積極的に放射能対策を実施することを決め、まず、地域内68カ所のほ場で土壌検査を実施。米を栽培するには問題ないレベルという結果を確認しました。
今年の収穫にあたっては、田起こしの際に深く耕すことを推奨したほか、作付前にカリウムを多く含んだ鶏ふん焼却灰や塩化カリウムによる土壌改良を決めました。対象は、パルシステム向けに「コア・フード」や「エコ・チャレンジ」基準で米をつくる全生産者です。土壌改良を行わない生産者の米は、受け入れないことも決めました。土壌改良に使用する資材の代金の一部は、パルシステムとJAみどりので負担することになっています。
信頼の裏付けのために
JAみどりの独自で行っている放射性物資の検査。
生産者も組合員も
「同じ田んぼのメシの仲」だから…
パルシステムでは、2月からの新たなガイドラインとして、米の基準を1kgあたり10ベクレルに設定しました。これは現状実施しているパルシステムの自主検査で「不検出」であることを示します。
JAみどりのの「パルシステム米栽培研究会」で副会長を務める生産者の齋藤さんは、放射能対策とパルシステムのガイドライン変更を説明したときのことを、今も強く覚えています。「『10ベクレル』と伝えた瞬間、会場全体が揺れるようにざわめきました。それだけ厳しいと感じる数字だったのでしょう。反対の声があがることも覚悟していたのですが、話を聞いてくれるうちに『やれることはやろう』という雰囲気になっていました」。
齋藤さんはこうも話します。「これまでは、水の冷たい山沿いの田んぼがおいしい米を作れるといわれてきました。海外より国産が求められていましたし、なかでも東北産への信頼感もあったはずです。それが原発事故以降、すべての価値観が『天地がえし』されました」。
そして続けます。「しかし、生産者には農地があります。食べる人の代わりに作っているという自負があります。たしかに全員が顔を知った仲ではないかもしれませんが、生産者も組合員も同じ田んぼでとれたご飯を食べる『同じ田んぼのメシを食べる仲』。だから、その人たちのためにも『悔やむ前にやろう』と心がひとつになったような気がします」(生産者の齋藤さん)。
資源循環と環境保全が
放射能対策にいきる
JAみどりのは、パルシステム神奈川ゆめコープを中心にこれまで22年間、産直に取り組んできました。同時に、資源循環や環境保全といった活動にも積極的に取り組んでいます。
コア・フードのほ場で散布される鶏ふん焼却灰は地域資源の有効活用を目的に作られた肥料ですが、成分分析の結果、セシウム対策に有効なカリウムの含有が高いことが分かり、土壌改良に使用されることとなりました。
また、ほ場では10年ほど前から、生きもの調査を実施しています。本来の目的は、農薬などの成分が生態系に与える影響を調べることですが、JAみどりのでは、この生きもの調査を低線量放射線の影響を調べる手段として活用していくことも検討しています。
地域にある資源を有効活用し、できるだけ農薬を使用しない農業を進めていた活動が、放射能対策でも存在感を発揮することになりそうです。
「生産者は、虫やカエルなど、小さな生きものを見ながら作物を栽培してきました。生きもの調査はその延長です。放射能対策も基本は同じだと考えています。生きものを見て対策を積み重ねれば、この問題も乗り越えられると信じて栽培していきます」(生産者の齋藤さん)。
気概、心意気、思いやり――。そんな気持ちを胸に、生産者のみなさんは今年も米作りに励んでいます。
生産者へのメッセージ
パルシステム埼玉 東松山センターは昨年予約登録米の実績が1位。
今年の取り組みを前に5人が代表で生産者へのメッセージを寄せてくれました。
*本ページの内容は2012年6月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。