2012年は「国際協同組合年」 協同組合が今、注目・期待される理由(社会貢献活動レポート|2011年11月)
2011年11月1日
来年、2012年が「国際協同組合年」であることをご存知ですか。国連が、09年12月に行った総会で決定しました。その目的は、協同組合の認知度を高めること、設立や発展を促進すること、そのための政策を政府などに求めていくこと――の3点です。
協同組合には、よく耳にする農協や漁協をはじめ、いろいろな種類がありますが、生活協同組合も、いうまでもなく協同組合のひとつです。それは、私たちには身近でも、世間では意外と知られていません。協同組合は株式会社などと比較してどう違うのでしょうか。さらに、なぜ近年、国際協同が注目され、国際協同組合年が定められたのでしょうか。来年の国際協同組合年を前に少しおさらいしてみましょう。
世界的に期待される4つの理由
「協同組合が世界的に期待されているのは確かです」。こう話すのは、私たちのくらしと生協についての恒常的な研究体制を整備・確立している生協総合研究所で理事を務める栗本昭さんです。栗本さんは現在、国連で定められた2012年の国際協同組合年に向け「国際行動計画」の策定を進めている国連専門家グループ会議のメンバーです。日本国内でも「協同組合憲章」の策定を進めており、栗本さんはその検討委員会の副委員長も務めています。
協同組合に期待が集まる理由。それは何なのでしょう。
1つめは、貧困や失業などに協同組合が大きな役割を果たしてきたこと。
2つめはそれに関連し、2015年までに貧困を半減させることを目標とした国連の定める「ミレニアム開発目標」に協同組合の役割が大きく期待されていること。
3つめは、2008年に発生したリーマンショックで発揮した耐久力です。世界的な金融危機で多くの金融機関が公的資金を投入しなければ生き残れなかったのにも関わらず、協同組合による金融機関は多くが公的資金を必要としませんでした。そのため金融危機以後、協同組合へ預金を乗り換え、預金残高が増加したケースも少なくなかったそうです。その前後に発生したエネルギーや食糧の高騰でも、対応力が大きく評価されることとなりました。
4つめは、社会の大きな変化です。歴史を振り返ると、国はオイルショックでインフレと失業の増加を招き、国の力の限界が現れました。それに代わって見直されたのが、民間の資金を活用した市場の力でした。規制緩和と自由化で経済は活性化する一方で、21世紀に入ると環境問題や格差社会の表面化、エネルギーや食糧の高騰など、市場の限界も表出してきました。「それらの問題を解決する役割として注目を集めているのが市民社会であり、協同組合なのです」(栗本さん)。
協同組合は『自助』『共助』の組織
自分たちの生活を守る
協同組合が注目された理由は、株式会社などと異なる、その組織の形態にもあります。「東日本大震災をはじめ震災のたびに『自助』『共助』『公助』という言葉がメディアで流れますが、協同組合は『自助』と『共助』の組織だからです」と、注目の理由を栗本さんは説明します。
協同組合は、利用者が所有し自ら管理する組織です。生協を利用するためには組合員が出資金を出さなければならないのは、そのためです。
栗本さんは「たとえば国際協同組合年を提起したモンゴルは牧畜くらいしか産業がなく、電気や通信、金融など生活に欠かせない産業は外国資本が占めています。そこで出資者が『投資に見合わない』と判断し、こぞって撤退した場合、この国のインフラは誰が担うのでしょうか。協同組合であれば、こうしたリスクは回避できるのです」といいます。
事実、世界では電力や水道を供給する協同組合があるそうです。欧州では風力や太陽光などの自然エネルギーを提供する協同組合がつくられています。英国やスウェーデンでは、社会体制の違いはあるものの、葬祭事業のトップシェアを協同組合が占めているそうです。また、法律相談や税金の手続きを行う協同組合もあります。生活になくてはならない事業を協同組合が担えば、市場に左右されにくい安定したサービスを享受することができるのです。
次のステップアップへ
社会に示す絶好の機会
しかし、国内に目を向けると都合のいい話ばかりあるわけではありません。栗本さんが副委員長を務めて策定を進めている「協同組合憲章」には、政府が取り組むべき課題も指摘する予定です。課題のひとつ、それは「『協同組合』として要請する行政窓口がない」ということです。
私たちが働く生活協同組合の所管は、厚生労働省です。それに対して農業協同組合は農林水産省、信用金庫は金融庁など性格によって所管が分かれています。自動車メーカーであれば経済産業省、運輸業であれば国土交通省というような一括した窓口が行政にはないのです。
ちなみに、国際協同組合年を担当している国家公務員は、現在は外務省の一担当官しかいないそうです。「こうした状況だからこそ絶好の機会ととらえ、私たちの力で国際協同組合年を生かさなければなりません。協同組合が世界から期待される役割を果たし、ステップアップするためになにをすべきかを真剣に考え、実行する必要があります」。
2011年は、東日本大震災という誰もが忘れられない経験をしました。助け合いや人のつながりの大切さがあらためて見直されています。栗本さんは「生協がなんでもできるわけではありません。ほかの協同組合やNPOとの連携、支援もありますし、新しい協同組合を作るということも考えられます。パルシステムでは、セカンドリーグなど新たな試みも始めており、活動の広がりが楽しみです」とパルシステムへ期待します。
協同組合を知り、社会に広く伝えることが2012年の国際協同組合年には求められます。生協の一員として自らが所属する組織について考え、できることを模索する1年にしてみてはいかがでしょうか。
協同組合のアイデンティティ(1995年ICA声明より)
●定義
協同組合は、共同で所有し、民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織である。
●価値
同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公正そして連帯の価値を基礎とする。
それぞれの創設者の伝統を受け継ぎ、協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、そして他人への配慮という倫理的価値を信条とする。
●原則
協同組合原則は、協同組合がその価値を実践に移すための指針である。
第1原則 自発的で開かれた組合員制
第2原則 組合員による民主的管理
第3原則 組合員の経済的参加
第4原則 自治と自立
第5原則 教育、訓練および広報
第6原則 協同組合間の協同
第7原則 コミュニティへの関与
(引用:日本生協連ホームページ)
*本ページの内容は2011年11月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。