パルシステムのエプロンは障がい者就労施設で手作り 製作委託で障がい者と社会をつなぐ(社会貢献活動レポート|2009年8月)

2009年8月1日

今年5月、パルシステムはNPO法人千葉県障害者就労事業振興センターから「福祉施設を支援する企業」として表彰されました。今回が第1回目となるこの表彰で、団体はパルシステムが初めてです。
パルシステムは2007年度から、子会社エコサポートを通じて同センターへ作業用エプロンの製作を依頼、同センターが千葉県内にある障がい者就労施設へ縫製やプリントの作業依頼をコーディネートしています。2年間で計5800枚のエプロンを製造していただきました。
「パルシステムから受託したエプロン製造は、センターにとっても障がい者就労施設にとっても、大きな財産となりました」と話すのは、同センターの経営支援相談員、緒方ともみさん。「施設の存在は、社会的にあまり知られていません。この経験をもとに、少しずつでも活動を広げていきたいです」と、声に力を込めます。

エプロン製作に携わった千葉市亥鼻福祉作業所

千葉県障害者就労事業振興センター
緒方ともみ経営支援相談員

制服の残布をエプロンに

千葉県障害者就労事業振興センターとパルシステムの関係は、3年ほど前にさかのぼります。パルシステムでは職員の制服を製造する際に発生するあまった生地(残布)の活用方法を模索しているところでした。そのとき偶然、組合員のひとりが同センターとかかわりがあり、仲介してもらうことで話し合いが始まったそうです。

同センターは千葉県から委託を受け、障がい者就労施設で製作される商品の販路拡大や仲介、ビジネスセミナーなどの研修などを行っています。障がい者就労施設は県内だけでも420施設あり、同センターは受注の内容、量によっては、複数の施設を結ぶコーディネートの役割も果たします。

エコサポートからエプロンの提案を受け、緒方さんはさっそく県内各地の施設へ相談しました。そのうち何カ所かから、前向きな返事が。「しかし、製品として納品できるエプロンをつくるまでには、いくつも乗り越えなければならない壁がありました」と緒方さんは打ち明けます。

表彰状を囲んで記念撮影
(後列右が緒方ともみさん、前列中央はエコサポートの小柳信夫専務)

加工がむずかしい布に苦戦

最初の壁は使用する布にありました。制服の布地は伸縮性があり、技術がなければ加工しにくい素材でした。「一度は快諾いただいても、布を見て断られたこともありました」(緒方さん)。一日中、各施設へ電話をかけた日もあったとか。「県内すべての縫製ができる施設には電話しました。受注にこたえられる規模の施設が県内になく、東京都や埼玉県にも連絡を取りました」。こうしてようやく、製造できるめどがつけられたのです。

製造を開始してからも困難は続きます。見本を渡して製造してもらったところ、まったく外見の異なるエプロンが届いたことがあったそうです。そこで、ある施設から細かく工程ごとの作業表を送ってもらい、それを各施設へ配布することで同サイズ、同じデザインのエプロンを生産してもらうことができるようになりました。

ひとりしかミシンを扱えない施設では、その方が急用で来れず、製作できなかったこともありました。「私自身、縫製のことにあまり詳しくなかったので、ミシンに使用する糸をそろえることもひと苦労でした。そういうときは施設同士で話してもらって解決したこともあります」(緒方さん)。

また「納期」になじみのない施設も少なくありませんでした。多くの施設は、自主的に菓子や手芸品をつくり、地域のバザー、文化祭といったイベントで商品を販売しています。こうした場合、つくった数だけ売ればよく「いつまでにこれだけの量」といった納期はありません。また、商品の品質もそれぞれに任されているため「よい製品をつくろう」ということはあまり意識されていませんでした。

障がい者就労施設で製作されたおなじみのパルシステムエプロン

「自分が作ったものが活用されている」、
この達成感が自信に

これらの壁をひとつずつ乗り越えながら、エプロンの生産は軌道に乗り始めました。2年間で5800枚にのぼります。施設利用者に支払われる工賃のアップにもつながりました。「エコサポートさんが事情を理解してくださったこともあり、各施設の生産体制にあわせたおおまかな納期を設定できました。利用者や施設関係者の意識向上へ確実につながっています。パルシステムのエプロン製作をきっかけに、施設同士が連絡を取り合い、連携する機会も増えました」(緒方さん)。

エプロン製作には、11の障がい者就労施設がかかわりましたが、新たにエプロン製作を始める施設の職員が視察に訪れたり、逆に経験のある施設から指導者を派遣したりすることで、横のつながりが深くなったようです。「これまでもお互いを知る機会はありましたが、仕事を通じた交流を通し、より具体的な話ができるようになりました。いまでは機械で布の裁断できる施設やミシンを使うことが得意な利用者がいる施設などが、センターを介さずに工程を分け合うことも増えています」。

さらに「パルシステムの仕事を請け負った」という事実が、施設の利用者や職員の自信にもつながっているといいます。パルシステムのイベントでエプロンをプレゼントしている写真を見てもらったところ、大喜びだったそうです。「『作って終わり』ではなく、活用されていることを知り、これまでにない達成感を味わえたのだと思います。以来、活気ある雰囲気に変わった施設もあります」。

もっと障がい者就労施設のこと知ってほしい

しかし、障がい者就労施設の経営はそれだけで順風満帆というわけではありません。県内の各施設では昨年秋の金融危機以降、仕事量が急減しているのが現実です。「施設の職員も仕事がなければ利用者とかかわることができませんし、利用する障がい者も社会との接点がありません。もっと社会へのメッセージを強めることが必要だと考えています」。

同センターでは今年から、新聞の折込チラシで商品をアピールすることも始めました。「障がい者就労施設がどんな施設か、社会的な認知も低いといわざるを得ません。みなさんの地元にも必ず障がい者就労施設はあります。そこで販売されている商品を買うことが『ちょっといいこと』につながっていることを知ってほしいです。パルシステムの職員のみなさんも、地元の活動に目を向けていただければと思います」。緒方さんの挑戦は、始まったばかりです。

 

障がい者就労施設

身体障がい者や精神障がい者、知的障がい者、家庭の事情で就業や技能取得が困難な人などに、就労の場や技能取得を手助けする施設。かつては「授産施設」と呼ばれていましたが、法制度の変更により、使われなくなっています。
施設数は千葉県内だけでも420カ所あり、活動内容は、菓子や手工芸品の自主的な製作、企業や官公庁からの作業受注など。施設のなかには弁当の配達やみその製造、染物製作、公園清掃、ポスティングなどを手がけるところもあり、活動内容は多岐に渡ります。

*本ページの内容は2009年8月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。