新潟県 遺伝子組換えイネ裁判のゆくえ 裁判で新潟県の米を守れるか(社会貢献活動レポート|2007年6月)

2007年6月1日

現在、新潟県で「遺伝子組換えイネ」の屋外栽培をめぐる裁判が続けられていることをご存じでしょうか。遺伝子組換えイネの野外栽培中止を求める裁判で、国内では初の遺伝子組換え作物をめぐる裁判です。2005年に裁判がスタートし、今も続いています。
現在は、裁判所の指示により「鑑定実験」が行われており、裁判は小休止。この合い間を縫って、4月17日、東京の飯田橋セントラルプラザで、裁判の中間報告会が行われました。中間報告会では、裁判に関わった弁護士や研究者のみなさんが、この裁判を通じて感じたこと、考えたことなどを語りました。

日本で始めての遺伝子組換え作物に関する訴訟

「それは一本の電話から始まりました」。新潟イネ裁判支援ネットの安田節子さんは、報告会の冒頭の挨拶でこの裁判のスタートを振り返りました。「新潟県で遺伝子組換えイネの野外実験が始まる。野外で実験すれば、一般のイネとの交雑は起こるに決まっている。そうすると風評被害で新潟の米は売れなくなってしまう」。2005年、新潟県の米農家から発信されたこの一本の電話がきっかけとなり、神山美智子さんら弁護士6名が訴訟代理人となり、遺伝子組換えイネの田植えを差し止める民事訴訟を起こしました。しかし、同年5月31日に第1回目の田植えが実施され、6月には第2回目の田植えが実施されてしまいます。その後、「仮処分命令申立却下」の決定が下されこともあり、同年12月、地元新潟の市民と加藤登紀子さん、ちばてつやさん、山下惣一さん、中村敦夫さん、毛利子来さん、西丸震也さんなど総勢25名が原告となった、GMイネの野外実験中止を求める裁判が提訴されました。これは遺伝子作物に関する国内初の訴訟となります。

カラシナの遺伝子をイネに

そもそも今回の実験は、どのような実験なのでしょうか。

「カラシナ」という植物は、「ディフェンシン」という抗菌タンパク質を自らつくることにより、病気から身を守っています。それならば、このタンパク質をつくり出すカラシナの遺伝子をイネの遺伝子に組み込み、ディフェンシンをつくり出すようにすれば、病気に強いイネができるに違いない、というアイデアからスタートしました。農薬を使わなくても丈夫なイネが育てられる、環境にやさしいイネ、というわけです。こうして研究が始まり、つくり出された遺伝子組換えイネは、室内実験を繰り返し、実用化に向けて屋外で実験したいということになりました。

しかし、薬剤を多用すると薬剤耐性菌が生まれるように、ディフェンシンの常時大量の生産が耐性菌を出現させる可能性は充分あります。動植物にとって、ディフェンシンは病原菌に対する最初のバリアです。このバリアを無効にしてしまうのが耐性菌の存在です。今回の野外実験で、水田中にいる緑膿菌などがディフェンシンにより耐性を獲得した場合、生態系に大きな脅威をもたらすかもしれないという恐れがあります。

支持の輪が広がる

当初、この「遺伝子組換えイネ裁判」は新潟県内においてほとんど報道されておらず、県内でも活動が浸透しない状況でした。仮処分申請に関する裁判所での論議は非公開となっていたのですが、裁判になってからマスコミを含めて傍聴などが可能となりました。また、加藤登紀子さん、ちばてつやさん、山下惣一さんなど著名人が賛同していることもあり、徐々にマスコミ報道もなされるようになってきました。

また、新潟の米と自然を守る連絡会では、2005年7月7日付け新潟日報朝刊にて実験の中止を求める意見広告を掲載(新聞一面広告)、また、集会やデモ行進を組織してアピールするなどを行いました。これらの活動もたびたび新聞等で取り上げられ、この裁判に対する認知が高まってきました。これに伴って、国内外の研究者から賛同の意見が寄せられるようになってきました。

前代未聞の裁判!

これまで約1年余りにわたる裁判で、遺伝子組換えイネが常時大量につくり出すディフェンシンというタンパク質がイネ体外に出るかどうかが最大の争点となりました。そこで裁判所は、第三者による鑑定を行うこととし、3月15日の公判において京都大学の研究室に鑑定を依頼することを決定しました。この鑑定結果を待って、裁判は第2ラウンドに入ることになります。

原告弁護団の柳原敏夫さんは「例を見ない、前代未聞の裁判」と言います。なぜなら、「原告が見つからない(まだ被害者が出ていない)、経験者がいない、取り締まる法律自体がない、マスコミの関心もない」という、ないないづくしの中でのスタートだったからです。

裁判のこれまでの経過を振り返って、柳原さんは、国側の言う安全性の科学的根拠の弱さ、市民に対する説明責任のなさを感じています。「国側の言うとおりに安全性チェックを任せていたら、深刻な災害がいつ起きても不思議ではない(柳原さん)」。

原告弁護団団長の神山美智子さんも同様の懸念を持っています。「もし仮に、この実験(鑑定実験)でディフェンシンが検出されなかったとしても、それはそれでかまわない。このような実験を始めるときのチェックの体制が何もないことが問題なのです。耐性菌が生まれるのではないかとか、そういったことが国の規則となって定められていない。そのような仕組みをつくっていくための裁判になると考えています」。

「自然はそんなに生やさしいものではない」と柳原さんは言います。「単なる『反対』『ボイコット』ではなく、より積極的に、民衆と自然とが一緒に取り組む、21世紀のライフスタイル、社会システムの貴重な模索の試みではないか(柳原さん)」。
まだ裁判は始まったばかりです。

*本ページの内容は2007年6月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。