循環型社会へのインキュベーター役に 5年目を迎える「パルシステム レインボー基金」(社会貢献活動レポート|2004年6月)

2004年6月1日

2004年の1月、東京・赤坂プリンスホテルで開催された「農法研究会」において、2003年度のレインボー基金助成団体の活動発表が行われました。「地域循環型社会づくりへの貢献の具現化」を目的に、2000年に創設されたレインボー基金も今年(2004年)で5年目、これまでに49団体、2,758万円を助成しています。(聞き手はコープニュース上林裕子記者)

今野聰氏

この基金が一般的な助成と違うところは、「グループ全体の事業や運動に関連するもの」を対象にしているところです。ここにパルシステム連合会自体を、地域循環型社会の推進役としてきちんと位置づけていこうとする決意を見ることができます。レインボー基金の創設時から運営委員として審査に関わってきた今野聰さん(NPO法人野菜と文化のフォーラム副理事長)は、パルシステム連合会の職員一人ひとりが、「レインボー基金のオルガナイザーになってほしい」と語ります。

基金の創設と社会背景

レインボー基金は、「地域での循環型社会づくり基金研究会」の答申(99年3月)をベースに、2000年1月の理事会に提案されました。この時点では、対象分野を「農業」「環境」「福祉」とし、基金の目的は「連合会が地域での循環型社会づくりへの貢献を具現化するものとして設置」「地域の生活者や生産者が農業・環境・福祉等の事業を開始又は継続発展にあたって、調査研究・実験・交流活動・人材育成に対して助成」、会員生協の市民活動等への助成とは違い「グループ全体の事業や運動に関連するものを主として連合会の場で対応していく」としています。その後、福祉は対象から外して会員生協で対応すると改訂、また、助成対象や申請内容、運営委員会の増員など、現状に合わせた制度とするために見直しを行ってきました。

今野さんのパルシステム連合会との関わりは古く、連合会が法人化する(1990年)以前、生消協を作るために集まって協議していた頃からのおつきあいだそうです。その頃話していたのは「産直の『原型』とは何か」ということ。「農業とは必ず自然を破壊する、環境に負荷をかけるものだと言うことが一方にある」このことを忘れてはいけないと、今野さんは言います。レインボー基金の生まれて来るまでの時代背景を今野さんは下記のようにまとめています。

  1. 70年代/第一次オイルショック~第二次オイルショック(1979年)
    • これまでの成長にかげりが出てきた時代。農業で言えば、農薬の多使用が問題に。
  2. 1986年チェルノブイリ原発事故~1992年地球サミット
    • アースデイなど環境を考える動き、環境自治体会議の発足など。
  3. アジェンダ/自主行動基準の時代
    • 自主監査、アイドリングストップなど、自主的な環境対策。その渦中でのレインボー基金の創設。

遠くで見ること、近くで見ること

レインボー基金の審査に関わってきた中で、「農業や食べ物のことを近くで見るのと遠くで見るのでは風景が変わる」と今野さん。助成団体の選考は、申請書類の資料をもとに審査していく(遠くから見る)のですが、これが非常に大変な作業で、3回目頃にはこの審査方法が不安になってきたそうです。

その結果、一昨年(2002年)からは現場を見に行くことになりました。昨年は「山梨おから飼料化会議」に参加する増穂町の養鶏農家と、神奈川県の首都圏とんトン協議会の2ヶ所を見学しました。

「渓南鶏友会」の鶏舎

山梨の養鶏農家は約300羽を平飼いしており、エサも自家配合。卵はベルトコンベアで運ばれてくるわけではないので、鶏舎の中を探して歩き回らねばなりません。すぐ近くには大型の養鶏場があります。これらの大型養鶏場を間近に見ながら今野さんは「よくぞ大型化しないで平飼いでやっている」と感心したそうです。同会議では飼料の中にどのくらいおからを配合できるか、県の畜産研究所と共同で殻の固さや黄身の色など卵質を調査しています。折しも『POCO21』2004年5月号の「鶏インフルエンザ」の特集では、京都・浅田農産の鶏舎の中の写真が掲載されていました。巨大な鶏舎の両側に、幾段にも重なったケージが見えます。浅田農産はコープこうべの卵の六割を出荷していたそうですが、「事件がはからずも巨大養鶏場の内部を間近に見せることになった」(今野さん)のです。

「渓南鶏友会」で視察をおこなう今野氏

もう一ヶ所は養豚で、これもおからの飼料化を行っている首都圏とんトン協議会。このときは獣医師のグループと一緒だったため、とんトン協議会のほかに伊勢原にある残飯養豚の農家も見学しました。ここでは毎日ソニーの食堂ともう一ヶ所の2ヶ所の食堂から残飯を回収、自宅前に設置した乾燥施設で脱水後、栄養価を高めるなどして飼料としています。ここは首都圏の産地ではなく、豚肉は厚木の市場を通して主に中華街などに出荷されるとのこと。今野さんはこの残飯養豚を「地域循環のとても良い事例」と思ったそうです。現在、パルシステム連合会では、豆腐製造で発生するおからの循環を目指す飼料化をスタートした段階ですが、このような地域の中で発生する残飯の循環による養豚をどう考えるかについても検討していく必要がありそうです。

レインボー基金を広げていくために

こうした試みは他の地域でも始まっています。例えば東京赤坂のホテルオークラでは、厨房及び300あるテナントから出る残飯を施設内に設置した機械で飼料化・肥料化し、屋上のバラ園に使ったり、生産者に提供したりしています。残飯を集める際にテナントにはプラスチックや金具は絶対入れないことを徹底しています。

また、梨などの果樹園が多い稲城市では2002年に環境保全型農業委員会が発足。剪定枝を破砕車で回収、チップとして公園などのクッション材に使っています。さらに破砕車の燃料には廃油から作った燃料を使う計画とのこと。

今野さんは稲城市などのように行政の側から運動が起きてきていることに対し、レインボー基金も地域の中で自治体や農協などを含む広がりを持つ必要があると指摘します。さらに「稲城市はパルシステム連合会のセットセンターがあるところ。周りを見渡せば、いくらでも基金を生かすところがある。自分たちが働いている自治体の中にレインボー基金を生かしていこうと職員が意識していくことが必要」とし、「そのためにはまず、職員にレインボー基金のことをよく知ってもらい、職員が基金のオルガナイザーになってほしい」と語ります。

評価すること、伝えることの大切さ

他の生協でも、あるいは一般のスーパーであっても、これからはイヤでもこうした環境問題に取り組まざるを得ません。それは畜産物であれば健康な生き物と言うことであり、農産物であれば、赤トンボやホタルがいるたんぼなど、周りの生物が生きていける環境を指します。
そして大切なのは、こうした環境で育てたものが商品となったとき、どのようにコスト評価をするかということ。それはホタルや赤トンボ、ドジョウのいる田んぼや、平飼いで砂肝の大きくなった鶏をどのように評価し、その違いを組合員にどう伝えことができるかということです。

レインボー基金運営委員会メンバーの皆さん

こうしたホタルや赤トンボ、砂肝の大きな鶏を『原型』と見なすのであれば、それをどう表現していくのか。今野さんはそれを組合員に伝えていくのは『食教育』だと考えています。「中心に環境を据え、子どもたちに田んぼや牧場や畑で実体験をしてもらうことが大事なこと」と期待しています。

これまでの助成実績

年度 団体数 助成金額
2000年度 9団体 399万円
2001年度 11団体 565万円
2002年度 6団体 282万円
2003年度 14団体 932.7万円
2004年度 9団体 580万円
累計 49団体 2758.7万円

これまでに49団体がレインボー基金の助成を受けています。基金は、さまざまな地域で地域循環型社会づくり活用されています。

*本ページの内容は2004年6月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。