渋谷で「ひきこもりVOICE STATIONフェス」 宮本亞門さんらと誰もが生きやすい地域を呼びかけ

2026年2月4日

経験を誇りにつながる人々

パルシステム連合会が企画委員を務める、厚生労働省「ひきこもりに関する地域社会に向けた広報事業」は、1月24日(土)渋谷ストリームホール(渋谷区渋谷)で「ひきこもりVOICE STATION フェス」を開催しました。ひきこもりへの社会的理解を広げるキャンペーンの一環として、5回目となる開催では、社会の多様性への不寛容に直面した経験者のさまざまな思いを伝えました。オンラインを含む参加者およそ350人とともに全国に推計146万人(内閣府調査)いると言われるひきこもり状態の人たちへの理解を深めました。

ひきこもりへの理解広める集大成

イベントは今年度の「ひきこもりVOICE STATION」の集大成として、自身もひきこもり経験のある演出家の宮本亞門さんが、ファシリテーターを務めました。ひきこもり経験のあるお笑い芸人山田ルイ53世さんとインフルエンサーまいきちさんとともに、自身の過去の感情の浮き沈みを表現する「人生ドラマグラフ」でそれぞれの当時の思いを振り返りました。ひきこもり経験を基にしたアートを紹介するバーチャル!「‟HIKIKOMORI”ANYONE?他人事じゃないかも展」で印象に残った作品の感想なども伝え合い、多様な思いを抱える人たちの存在を知るきっかけを作りました。

▲ひきこもり経験を語った山田ルイ53世さん(左)宮本亞門さん(中央)まいきちさん(右)

同世代が遠くへ

山田ルイ53世さんは、完璧であることを自らに課し過ぎて、中学2年生から6年間ひきこもりを経験しました。優秀な子どもとして周囲の大人から認められ、自分の意思で中学受験を決めて地元の名門中高一貫校に進学しましたが、学校生活での失敗をきっかけに自宅の部屋にひきこもるようになりました。

インターネットもSNSもなかった当時は、部屋の窓の隙間から見える風景だけが外界との唯一の接点で、望遠鏡で外を観察し過ごしてていたそうです。ひきこもりの知見やフリースクールがなかった当時は、親も何が起こったのかと戸惑っていたのではと当時を振り返ります。

ひきこもりながらも「優秀な自分は、やる気になればすぐにでも取り返せる」と考えていた山田さんは、ある日ふとテレビで成人式のニュースを見て「同世代が遠くに行ってしまう」と感じたそうです。これをきっかけに、「玄関まで行こう」「靴につま先を入れてみよう」と「とりあえず」を重ね、外に出られるようになったと話します。

山田さんは「ひきこもりは誰でも止まりうる双六の1コマ」と言い「誰もが夢や希望を持つのが当たり前ではないはずです。行き当たりばったりでも、目の前の小さな一歩を進めれば素晴らしいことです」と伝えました。

自分を守ってあげないと

まいきちさんは、幼少期から容姿も頭も良かったことから、自分なら成功できると信じて11歳でSNSを始めました。目立つ存在で、意思をはっきりと伝える性格であったためか、小中学校でいじめを受けてきましたが、相手にしないことで乗り越えていました。

15歳で芸能プロダクションに所属しデビューした後、コロナ禍となり自身も罹患しました。「罹患するのは自分が悪い」という風潮があった中、まいきちさんはSNSでも学校でも「近づくな」といじめを受け不登校になりました。ひきこもっていた期間は否定の声が頭の中にこびりつき、自分との戦いでへとへとになり「痛みに集中していれば、他のことを考えなくても済む」と自傷行為を繰り返していました。

部屋に閉じこもっているので、倒れていても誰にも気付かれず過ごしていましたが、ふと鏡を見た時に「頑張っているのに自分を傷つけるこの子を守ってあげないと」と感じ、芸能界で生きると決めて自傷行為をやめることを決意したそうです。

「SNSの配信はキラキラした場所だけを切り取りますが、幸せの物差しは周りと比べた自分ではないはずです。見えない所ではみんな辛い思いや悩みを持っています」と話し、「自分の経験を理解しようとしてくれる人がいるこの空間が、幸せで奇麗だと感じ、活力をもらえました」と参加者に向け、思いを伝えました。

▲グラフを追いながらそれぞれの経験を紹介

ひきこもりの経験は「人生の勲章」

宮本さんは、幼少期から日本舞踊や仏像が好きで他の子どもと興味が違い「同じにしないといけない」ことに違和感を覚えていました。高校生の時に周りに合わせることに疲弊し、1年ほど不登校になりましたが、部屋にこもって繰り返しクラシックを聴き続けた経験などが、演出家の仕事につながりました。

宮本さんは「不登校は、自分を守ろうと意思を持って決めることです。人と違うのは良いことで、新しい発想を持てる可能性があります。ひきこもりは、次の人生やきっかけを見つけるための素晴らしい経験です」と語ります。共通の価値観などないはずなのに、誰もが「普通」という言葉を安易に使い過ぎていると話し「ひきこもりの方が普通かもしれない」と訴えます。

宮本さんは「まじめな人ほど息苦しさを感じ、ひきこもりになりますが、苦しみがあるからこそ持っている強さがあります。役者も痛みが分かるから、人に伝えることができます」と言います。ひきこもりは「人生の勲章」だと誇りを持ち、誰もが自分を大切にできる社会になれば良いと語りました。

経験者らが演じた当事者一人ひとりの思い

会場では、ひきこもりの経験談を基にしたショートドラマ「こもリアル」全6話のダイジェストを上映し、ドラマを監修した宮本さんが、監督の山田英治さんと6人の俳優、エピソードを提供した経験者からそれぞれの思いを引き出しました。

山田監督は5年前の「ひきこもりVOICE STATION」立ち上げ時から関わり、当事者や経験者の声を取材して動画などで紹介してきました。伝わりづらい長い期間の孤独や孤立が、より多くの人たちに知ってもらえるようにと、今年度はSNSで拡散できるショートドラマを制作しました。12月に公開した動画は、1か月ほどで総数200万回再生を超えています。

山田監督はエピソードを提供した当事者から、当時の思いなど徹底的に話を聞いてドラマを制作しました。ドラマには、ひきこもりの経験がある俳優も出演し、自身の当時の思いを振り返りながら演じたと話します。経験のない俳優も長い期間の苦しみを1日演じただけでも苦しくなったと語りました。

バーチャル展覧会の会場に集ったエピソードの当事者たちは、ドラマを通して自分の経験を客観的に見ることで「当時の家族の思いが理解でき、許す気持ちになりました」「鏡を見ているようで当時の自分を知るきっかけになりました」など、新たな発見があったことを話しました。

▲バーチャル展覧会の会場に集まった当事者とドラマの感想を語り合う俳優の皆さんと山田監督(左端)

全国の「心の居場所」を中継

イベント後半は、VOICE STATION事務局メンバーで主にイベントのパネルトークやワークショップを担当する東善仁さんと山森彩さんとともに、神奈川、高知、秋田、新潟、奈良、大分の6都市で開催した「ひきこもりVOICE STATION全国キャラバン」を振り返りました。

キャラバンは各地でそれぞれテーマを設け、当事者と経験者、家族や支援者などさまざまな立場の人が登壇し、それぞれの経験や思いを伝え合いました。会場と各都市の団体が運営する居場所をオンラインで中継し、それぞれの活動やキャラバンで印象深かった話などを紹介しました。

神奈川では宮本さんによる人生ドラマグラフワークショップ、他5都市では東さんと山森さんによるワークショップを実施しました。

5都市では、ひきこもり当事者の思いが書かれた「ボイスカード」をもとに、各地の地域資源を活用し願いをかなえるアイデアを参加者が出し合い、各都市を題した「みらい新聞」にまとめました。バーチャル空間も含めた誰もが自分らしく過ごせる「心の居場所」のアイデアをそれぞれ紹介しました。

東さんは「居場所は当事者や家族に加え、支援者の拠り所にもなっています。色んな人がフラッと行って自分の場所と思える拠点が地域の中にたくさんできると良いですね」と振り返り、山森さんは「地域毎の特徴は違うけれど、根っこの思いは共通しています。支援する・されるではなく、お互いが頼りながらともに生きやすい社会を作っていけると良いです」と話し、イベントを締めくくりました。

▲開催地をオンラインで中継し振り返った全国キャラバン

パルシステムは多様な立場にある人たちへの理解を広めるため、情報メディア「KOKOCARA」や地域活動情報誌「のんびる」での記事掲載や連携団体の「ひきこもり女子会」開催に協力しています。今後も、さまざまな状況に置かれる人たちの声に耳を傾け、誰もが暮らしやすい地域づくりを進めていきます。

パルシステムの情報メディアKOKOCARA
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