“農政の憲法”改正でどうなる 生協6グループが学習会

2024年10月15日

生産者と消費者で未来を考える

国内で活動する生活協同組合6グループは10月11日(金)、オンラインで「食料・農業・農村基本法改正に伴う学習会―農業を守るために、消費者・生産者の声を反映させましょう!」を開催しました。東京大学大学院の安藤光義教授による講演のほか、生産者や消費者からもそれぞれの視点から改正法の問題点が提起されました。

1970年代食糧危機を想起する情勢

「農政の憲法」と呼ばれる基本法が今年5月、25年ぶりに改正されました。それにともない年度内には、中長期的な指針となる基本計画が改定される見通しです。学習会は生協6グループが合同で開催し、役職員、利用者のほか、生産者や取引先といった関係者など、530人が参加しました。

講演は「『食料・農業・農村基本法』と今後の課題―見直しの経過にみる問題点と今後の政策の方向性―」をテーマに解説しました。

冒頭、安藤教授は1972年の世界的な異常気象を機に発生した食糧危機から中東戦争、物価高騰へと続く世界の流れを振り返り「現在の世界情勢と似通っていると感じませんか。歴史は繰り返されるかもしれません」と危機感をにじませました。当時の日本政府は、稲作からの転換による小麦や大豆の増産政策を打ち出しますが、最終的には農作物の自由化による物価安定を選び、食料自給率はさらに低下しました。

改正された基本法については「新機軸になる政策はなく期待は薄いです」と評価しました。その理由として、主要な政策として打ち出された「スマート農業」「中小規模経営を支援する農地法改正」などは、改正前から掲げられていたことを挙げます。「囲碁の対局前から石が置かれている状態です」と例えました。

大きな検討課題のひとつ「食料安全保障」も、農林水産物の輸出の内訳がアルコール飲料(ウイスキー、清酒など)や調味料、菓子といった加工食品に占められている現状を示し「食糧危機が発生した場合に寄与できる品目ではありません」と指摘しました。

これらを踏まえた全体像について「農村政策はなく『みどりの食料システム戦略』も環境関連の施策と位置付けられました。農業のあり方を見直す社会転換の芽は摘み取られてしまったといえます」と述べ「農業生産の現場からのボトムアップを対抗軸とし、全体のバランスを再び整えていく必要があります」と指摘しました。

生産現場からは切実な声

後半は、米作、酪農、畜産、有機農業に携わる生産者と、消費者の立場からそれぞれ問題提起されました。発言者と概要は、次の通りです。(敬称略)

<米>山口勉・なすの農業協同組合どてはら会前会長
「生産は原価ぎりぎりの状態で常に経済的な心配を抱えています。今年の米価高騰は、将来的に消費を減少させ、生産過剰になるのではないかと、将来の不安を増大させるだけで困惑しています。現場の状況は政治の場に届かないと感じています。このままでは後継者は育ちません」

<酪農>髙橋憲二・千葉北部酪農農業協同組合代表理事組合長
「酪農はここ数年、85%が赤字経営と言われます。生産者は高齢化が進み、地元でもあと5年で急減することが予想されています。新規就農も経済的に成り立たず長続きしないケースも増えています。気候変動も重なり適正な価格形成は最重要課題です。このままでは夢と希望もった酪農はできません」

<畜産>宮北輝・合名会社宮北牧場代表
リーマンショックを契機に、投機によって穀物価格が不安定化する輸入飼料に頼らない肉牛生産を始めました。耕種農家などとの連携から、地域の多面的機能を生かした自給率向上の事例を示したいと考えています。畜産生産者としては、黒毛和種に偏った補助金や、飼料生産への支援も必要だと考えています。

<有機農業>萩原紀行・のらくら農場
労働人口激減への対処は喫緊の課題です。地元では、農業に限らず公共交通機関すら不全になるほど人手が不足しています。農業では、無借金のまま廃業できるリーダー格から廃業し、人材が流出しています。政府や自治体は、さまざまな補助制度を用意していますが、手続きが煩雑で農業の費やす時間がなくなっています。

<消費者>薬師寺ひろみ・グリーンコープ生活協同組合おおいた理事長
みなさんの発言から、さらに厳しい現実を知ることができました。私たちは、ウクライナ情勢や異常気象から食料やエネルギーの輸入に頼ることの危険性を感じました。1次産業は国の土台であり生命線です。政府には直接的、間接的な支援のしくみをつくってほしいと思います。

主催者代表として風間与司治・東都生活協同組合理事長は「基本法改正案には、長年産直に取り組む生協6グループが合同で政府へ提言しました。改正法には不十分なあり、実効性ある計画の策定が必要です。これからも輪を広げながら活動を続けます」とあいさつしました。

閉会では、大信政一・パルシステム生活協同組合連合会理事長が「学習会によって基本法の課題を整理し、知見を高めることができました。発言された生産者と消費者の声も基本計画へ反映できるよう、働きかけていきます」と話しました。