「士幌町肉牛産直会公開確認会」を開催 酪農と密接な乳用種の生産を確認
2019年9月30日
パルシステム連合会は9月12日(木)、13日(金)の両日、北海道帯広市河東郡士幌町で「士幌町肉牛産直会公開確認会」を開催しました。「北海道産直牛」を対象品目に、生産者と消費者の二者が確認しました。
2度目の開催に41名が参加
公開確認会は、生産者と消費者の二者が産地で生産状況を確認するパルシステム独自の制度です。1999年から制度がスタートしました。2010年度からは、会員生協主催による開催も始まっています。
「士幌町肉牛産直会公開確認会」は、パルシステム連合会主催で、ホテルグランテラス帯広ほかで開催しました。事前の講習会を修了した監査人と一般参加の組合員、生産者、生協役職員、関係者など41名が参加し、監査品目の北海道産直牛の生産状況、帳票類について確認しました。
「北海道産直牛」の産直産地
日本における肉牛生産の品種は、黒毛和種(5割程度)、交雑種(3割程度)、乳用種(2割程度)が中心です。北海道産直牛である乳用種(ホルスタイン種など)は、牛乳を生産するために、14カ月程度のサイクルで出産を繰り返します。安定した酪農基盤を支えるためにも、乳を出さない雄牛を肉牛として有効活用しています。士幌町肉牛産直会に加え、榎本農場とホクチクファームの3団体が生産しています。抗生物質を飼料に使わない「休薬期間」を極力長く設け、赤身主体の肉質で比較的あっさりした味わいが特徴です。
士幌町肉牛産直会は、北海道の産直牛肉産地からなる「ノーザンび~ふ産直協議会」に所属しています。パルシステムとは2003年に士幌町肉牛振興会(22牧場)として取引が始まり、4牧場に減少した2006年に士幌町肉牛産直会として名称変更、2010年には(有)緑陽肉用牛牧場の1牧場のみとなっています。今回の公開確認会は14年ぶり、2回目の開催となります。
産地数の減少には、一般的な肉牛生産で出荷直前まで用いられる「モネンシンナトリウム」という抗菌性飼料添加物を、10カ月齢以降使用しないことによる「肥育の難しさ」「鼓脹症(※1)など病気の多発」が理由のひとつとして挙げられます。「モネンシンナトリウム」は病気予防のほか、配合飼料を食べた牛の胃の中で発生するガスを抑えて栄養吸収を高め、牛を効率よく肥育させます。『モネンシンフリー』(※2)の飼育により、ガスの発生を抑える飼料の工夫や、広々とした牛舎でストレスを軽減して牛の健康に気を配るなど、生産コストの増大は避けられません。
(※1)こちょうしょう:第一胃内にガスが膨満し反すう停止、呼吸困難などの症状を示すもの。
(※2)モネンシンナトリウムを添加しないこと。
たい肥のリサイクル化にも尽力
当日は(有)緑陽肉用牛牧場代表の奥秋博己さん、JA士幌町畜産課の永谷高寛さんより、飼料の確保・配合を工夫している事例や、国内外の酪農動向に強く影響されることなどが報告されました。奥秋さんは、従業員4名で、北海道産直牛である乳用種(去勢)800頭に加え、交雑種1,800頭を生産しています。「一日の大半はたい肥処理と牛舎の清掃に費やします。牛の排泄物をたい肥化して、牛の敷料として自社で3回はリサイクル使用し、資源循環に努めています」と話し、環境整備についても言及しました。永谷さんからは近年、乳用種の雌雄の産み分けが進んでおり「雌の出生数が増加、雄牛は今後も減少傾向にあります。素牛価格が高騰するなど、産地の状況は深刻です。より消費交流が重要と感じています」との指摘がありました。
翌13日(金)は「十勝晴れ」の青空が広がるなか、奥秋さんの牧場を早朝より視察しました。大きいものでは2,000平方メートルを超す牛舎が、全部で15棟立ち並ぶ広大な土地では、たい肥の製造から貯蔵までを含めて、少人数で大規模に行われています。素牛農家から仕入れられた約7カ月齢の子牛は、約10カ月齢になるまで専用の牛舎で、牧草を主体とした粗飼料を与えて胃腸を強く、身体を丈夫に育てられます。その後、出荷される約18カ月齢までは穀類を主に日々配合を調整しながら与えられ、飼料管理も厳重になされていました。
さらに組合員と交流できる産地へ
監査所見の発表では「2000年の口蹄疫、2001年のBSE、そして牛肉産地の偽装などが次々と明るみになるなか、安全・安心を追求し、ともに歩んでくれた産地に敬意を表したい。経営をめぐる状況は熾烈化しており、意見交換の場がもっと増えるとよいと感じました」「パルシステムの産直四原則には、組合員との相互交流があり、さらに機会を検討して欲しい」「整った設備は衛生的に管理されていました。労働環境への配慮や、後継者の育成など、引き続きの取り組みを応援したい」などの所見がありました。
また、生産者監査人のパルシステム生産者・消費者協議会・薄一郎監事(すすき牧場)は「乳用種の肥育に、あえて取り組み、『モネンシンフリー』など安全安心を追求する生産への責任を強く感じました。またJA士幌町が全国的にも先進的な農協であることがわかりました。価格を抑える努力は当然ながら、自給飼料についても今後の課題として努力目標化していただければ」と期待を込めました。
監査人のまとめとしてパルシステム連合会産直部長・那須豊は「素牛の生年月日、受入日は番号ですべて管理され、飼育は月齢区分別に行うなど、感謝に耐えません。乳用種の生理にあった持続可能な飼育を、地域づくりのひとつとして今後も続けていただきたい」と、謝辞を述べました。
奥秋さんは「監査人から指摘された点は、意識して取り組みます。牛の肥育を始めてからもうすぐ30年になります。自分の仕事を見つめなおす、よい機会をいただきました」と話し、会場からの拍手で締めくくられました。