「72時間」で何ができるか? パルシステム埼玉“災害支援コーディネータ”育成(社会貢献活動レポート|2013年6月)

2013年6月1日

阪神・淡路大震災、東日本大震災のような大規模災害では、発生から”72時間”が重要だといわれています。これは、建物の下敷きになるなど大けがをした場合、72時間を過ぎると生存確率が急激に下がるため。食料などの物資の支援が行き届くまでの、おおよその時間の目安ともされています。
災害発生初期は、外部の支援に多くを期待できず、住民同士がいかに協力して困難を乗り越えるかがカギになります。災害時に地域で貢献できる人材を育成しようと、パルシステム埼玉では、セカンドリーグ埼玉やパルシステム連合会と協力し「災害支援コーディネータ養成講座」を実施。組合員理事や職員など、幅広い役・職員が参加しました。災害時の地域貢献とは、いったいどういうものなのでしょうか。

パルシステム埼玉 蕨本部周辺を歩くフィールドワークでは、身近なところに防災倉庫があることを発見

災害支援は通常業務と「別モノ」?!

パルシステム埼玉の本部(蕨市)で開催された「災害支援コーディネータ養成講座」の最終日。14名の受講生が、学びの成果を発表しました。「災害支援コーディネータ」とは、災害などが発生した場合、市民、NPO、企業、行政などさまざまな主体へ連携を働きかけ、問題解決できる人材を指します。

講師の赤城智美さん(NPOアトピッ子地球の子ネットワーク専務理事)は「みなさん、心身とも〝くたくた〟になったことでしょう」とねぎらいます。同じく講師の春野真徳さん(株式会社スプリングフィールド社長)は「回を重ねるごとに、受講生の顔が引き締まっていくように見えました」と、手応えを感じた様子。受講生からは「日頃からできることがたくさんあると気づいた」「防災対策になぜ地域活動が必要か、ほかの職員と共有したい」と、前向きな意見が出されました。

「でも、当初は多くの受講生が『なぜ受講しなければならないのか』と戸惑っている様子でした」と講師・山根眞知子さん(NPO「NPO事業サポートセンター」理事)は打ち明けます。たしかに、災害支援は通常の業務とは「別モノ」ととらえがち。講座を通じて、受講生が当事者意識をもつようになったのは、なぜでしょうか。

(左から)講師陣の山根さん、春野さん、赤城さん

実地で考え方やスキルを身につける

およそ3カ月にわたって実施された本講座。今回は「災害コーディネータ」養成の「基礎編」とし、「災害課題の解決へ向けた協働を働きかけられる」サポーターの育成を目的としました。

受講者は、ワークショップやフィールドワークを通じ、必要な考え方やスキルを身につけます。「ただ感想を述べるだけでなく『自分ならどうするか』を話さなければなりません。言いっぱなしにならず、主体性を持って講座に臨めたと思います」と、受講者のひとり、高田則夫さん(まちづくり・福祉推進課長)は話します。

フィールドワークでは、蕨本部周辺を歩き、周囲とどんな連携がとれるかを確認。「毎日歩いている地域でも『この施設は何のためにあるのか』なんて考えたこともありませんでした」(高田さん)。

ウォークラリー形式のフィールドワークで使用する資料。防災に関連する施設を発見するヒントが記されています

誰でも「災害弱者」に成りうる!
「ハザードマップ」の作成を

最終日の成果発表会では「災害弱者」という言葉がよく聞かれました。「災害弱者」と聞くと、高齢者や乳幼児をもつ親などと思いがちですが、たとえば視力の弱い人がメガネやコンタクトレンズを紛失したりすれば、どんな人でも災害弱者になります。東日本大震災では、アレルギー対応の支援物資がなく、命の危機に瀕した人が少なくありませんでした。

こうした人々を支援するには、日常の準備が不可欠です。備蓄物資の保管場所や行政の窓口はどこか、近隣で協力できるところは―?。講座では、〝当事者〟として自発的に考えられるようなプログラムを組みました。

その結果のひとつが「ハザードマップ」の作成です。ハザードマップとは、災害時に崩れそうな建造物や、浸水して通行止めになりやすい道路、木造住宅の密集地などを記したもの。ふだん配送を行うパルシステムなら、ドライバーの視点から危険箇所を抽出することが可能です。受講したセンター勤務の職員からも「ほかの配送職員を巻き込み作成したい」と提案がありました。

また、地域との連携を探ろうと、自主的に地元自治体を訪問した受講者も。「講座ではあえて『生協として』という前置きはしませんでしたが、回を重ねるたびに受講者が『地域への貢献』を考えるようになり、生協職員らしさが出てきたと感じます。原点を徐々に思い出したのではないでしょうか」と、赤城さんは話します。

最終日の成果発表会では、一人ひとりが学びの成果を語りました

日々の業務で築くつながりは
大規模災害の備えのひとつ

パルシステム埼玉は5月、蕨市と「災害時の支援協定」を締結しました。これは災害時、避難の必要な市民のための施設受け入れや物資の運搬に協力するというもの。地元新聞にも大きく報道され、内外からの反響も多くありました。「これで受講生のモチベーションがさらに上がった気がします。同時に『災害支援コーディネータ』が業務と無関係ではないことに気づきました」(受講生の総務部長・高橋健司さん)。

災害時、地域に貢献できる人材となるには、日常から地域との関係を築く必要があります。実は、それこそ生協の本来あるべき姿。「講座はそれに気づかせ、実行するきっかけになりました」と受講者のみなさんは口をそろえます。「配送センターは『何をしているところなのか』が見えにくいはず。そんな建物が災害時に役立つには、事前の周知が不可欠です。地域との連携は事業上のトラブルの防止にもなる。生協としての可能性が感じられた講座でした」(高橋さん)。

日々の業務で築く地域とのつながりこそ大規模な災害の備えとなる。最終日の発表でいちばん印象的だったのは、疲れているはずなのにいきいきしている受講生のみなさんの表情でした。「講座を終えて生協の潜在能力を垣間見ました」と講師のみなさんは話します。生協の可能性に気づいていないのは、もしかしたら生協の役・職員自身なのかもしれません。

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