地域資源を有効活用したパルシステムの「日本型畜産」おいしさ、食料自給にもつながります(社会貢献活動レポート|2013年1月)
2013年1月1日
地域にある資源を有効活用、循環させることで、食料自給率の向上をめざすパルシステムの「日本型畜産」。豚肉では2008年、飼料に米を配合して育てる「日本のこめ豚」を商品化しました。一方では、首都圏とんトン協議会を構成する北見畜産生産のパルシステム千葉限定「パルシステム千葉のこめ豚」も、発売から4年目を迎えます。
2012年からは、同協議会生産者の平川農場が、パン製造子会社・パルブレッドと連携し、えさにパンを配合した「藤沢のすくすくパン豚」をパルシステム神奈川ゆめコープ限定で発売。「日本のこめ豚」を生産する産直産地・ポークランドグループ(秋田県)も、もみ殻やおがくずを活用した放牧型豚舎による豚の飼育を本格的にスタートさせています。
各地の日本型畜産の取り組みは、どのような目的があるのでしょうか。
「工場みたい」にショック
いのちを育てる畜産“バイオベッド”
建設が進む、ポークランドグループの新農場「バイオランド農場」(秋田県小坂町)。ここでは、離乳後の豚を出荷まで育てる「肥育期」に使用する豚舎に、すべて「バイオベッド」と呼ばれる方式を導入します。バイオベッド導入の理由を聞くと、ポークランドグループ代表の豊下勝彦さんは「『まるで工場みたい』と言われ、ショックを受けたのです」と語って唇をかみしめました。
バイオベッドは、もみ殻や稲わら、おがくずなどをたい肥と混ぜ合わせ、発酵させて作ります。これを床材として豚舎に敷き詰め、豚を飼育します。本来、豚は土を掘り返す習性があるため、敷かれたバイオベッドに顔を突っ込み、飼育中も自然と混ぜられます。豚をさえぎる仕切りはほとんどないため、豚舎内でありながら"放牧"に近い状態で豚を育てることが可能です。
豊下さんは以前、豚の放牧についてもチャレンジしたことがあります。しかし、鳥の飛来による伝染病の心配や、降雪期には外へ出せないことなどから、実用化を断念しました。こうして試行錯誤の末にたどりついたのがバイオベッドだったのです。
「豚は最終的に人間に食べられます。でも、それまでは幸せに過ごしてほしい。だから『工場』とは呼ばれない、あくまでも『いのちを育てている』農場を実現したかったのです」(豊下さん)。
豚6割を失う危機救った飼料米
たい肥の発酵熱で暖房不要に
バイオベッド豚舎の導入は、2011年の東日本大震災で「確信に変わった」と、豊下さんは語ります。
秋田県は、震災による直接的な被害は軽微だったものの、ポークランドは深刻な燃料と飼料の不足に悩まされました。えさは、「日本のこめ豚」の生産を拡大するために地元のJAかづのが蓄えていた飼料米でなんとかしのぎます。「飼料米がなければ6割以上の豚を失いかねませんでした」と、豊下さんは振り返ります。燃料の不足も、寒さに弱い豚にとって深刻でした。それに対しバイオベッドの豚舎は、床材の発酵熱で空調設備がほとんどいりません。「自然に近い環境で育っているせいか、回復力がほかの豚舎の豚と異なりました。今後のエネルギー事情を考えても、できるだけ身近な資源を活用した資源循環型農業の可能性を追求していく必要があると考えています」。
ポークランドグループではほかにも、飼料米を「ポン菓子」に加工して消化の高い飼料を研究したり、たい肥を活用して耕作放棄地を再生したりする資源循環に取り組んでいます。「地元に応援され、消費者が喜んで利用してくれる豚肉を」。豊下さんは、新たな挑戦に向けて考えをめぐらせているようです。
家ぐるみで挑戦した「パン豚」
パン工場の副産物を有効利用
神奈川県藤沢市にある平川農場は、閑静な住宅に囲まれながら、都市型の資源循環型養豚に取り組んでいます。以前から食品副産物などの活用を試みてきた代表の平川伯昌さんは、2011年から「藤沢のすくすくパン豚」の実験生産を開始。豚は、パルブレッドで発生する商品として供給できないパンを飼料全体の10%以上の割合で与えられます。
パルブレッドでは、形が崩れるなど商品として届けることができないパンが、全体の3%程度発生します。これをなんとか活用できないか――。そんな考えが、商品誕生のきっかけでした。畜産農家にとっても、年々高騰する飼料代は悩みの種だったこともあり、パンをえさに使用すること自体は、円滑に決まりました。 「たいへんだったのは、実際にパンが運ばれてきてからです」と、平川さんは振り返ります。届けられたパンは、焼いて出てきた形状そのもの。このままでは、通常の飼料に混ぜて与えることはできません。「人が食べておいしいパンは、豚も同じ。パンから先に食べていくので、そのまま与えると栄養バランスが崩れてしまうのです」と、平川さんは説明します。
届けられたパンは粉末状にしなければならない。とはいえ、実験段階から高額な粉砕機を導入することはできません。パルシステムが調達した小型の粉砕機を使用し、ときには平川さんと奥さん、さらに息子さんまで動員し、深夜までかけてパンを粉末状に加工しました。「あれはよくも悪くも、いい思い出」と平川さんは冗談めかして話しますが、当時の苦労は計り知れません。
現在、パンはパルブレッドからいったん専門の業者へ預けられ、そこで粉砕してから平川農場へ納入されることになっています。
組合員も「すっかりファンに」
周辺住民に理解深めるきっかけ
商品化へのめどがついた2012年9月、平川農場とパルシステムグループなどによって協定書への調印式が行われました。式には、生産者グループの首都圏とんトン協議会関係者やパルシステムグループ役・職員のほか、地元藤沢市で活動する組合員も招かれました。
調印式後に行われた豚舎の見学やバーベキューによる試食交流会では、平川さんなど生産者と、なかには「自宅まで車で10分」と至近に住む組合員のみなさんが、焼けた「藤沢のすくすくパン豚」を囲みながら、会話を弾ませていました。組合員の1人は「資源を有効活用していながら、とてもおいしくて、すっかりファンになりました」と話します。対して平川さんは「全国的に畜産業は、においなどの問題から近隣住民とトラブルになりがちです。私たちが取り組んでいる日本型畜産をきっかけに、理解が進んでくれるとうれしいですね」と期待します。
各産地で取り組んでいる日本型畜産は、単に環境を守ることだけを目的としたものではありません。生産された豚肉を食べる消費者にとっても、安全性やおいしさなど大きなメリットがあります。つまり生産者と消費者がそれぞれ「Win-Win」となる畜産形態なのです。
*本ページの内容は2013年1月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。