地域に根ざす、ささやかで大きな一歩 お米の授業、センターまつり、避難訓練(社会貢献活動レポート|2011年12月)

2011年12月1日

パルシステム東京は2011年度方針のひとつに「(略)なくてはならない存在になるため(略)それぞれの地域に根ざした事業と運動の一体化を進めます」と掲げました。その一環として、事業と運動にそれぞれ分かれていた部署を統合した「パルシステム事業・活動本部」を設置。事業と運動の一体化を進めており、配送センターでは、地域特性にあわせた貢献活動の具体化を検討中です。昔から「事業と運動は生協活動の両輪」といわれていますが、そのバランスを保つことは全国の生協が頭を抱える大きな課題です。
パルシステム東京では、どのようにして地域とつながろうとしているのでしょうか。地元小学校でのお米の出前授業や避難訓練の受け入れなどを実施している、江戸川センターの取り組みを取材しました。

江戸川センターで行われた避難訓練の様子

パルシステム東京江戸川センター
センター長
木方 亮一さん

江戸川センターで小学校が避難訓練

2011年11月7日、パルシステム東京江戸川センター駐車場には、400名近くの小学生が整然と並び腰を降ろしていました。ここは通常、配送トラックが出発前に商品を積み込むスペースです。すべてのトラックが配送に出発してから30分後、緊張した表情で地元の小学生が車両通行用のスロープを上がり、江戸川センターへ入っていきました。「大きな津波が来た場合は、こういうところに避難します。今日のように素早く避難できるよう、心の準備をしてください」と校長先生は子どもたちに訓示しました。

江戸川センターで避難訓練を受け入れたのは初めてのことです。「これを機に、地域の人がセンターを理解してくれるきっかけになれば」と、センター長の木方亮一さんは話します。

住宅地にある江戸川センターが抱えるいちばんの課題は、騒音や振動。迷惑のかからないような施策は講じていますが、未明から納品のトラックが出入りするため、近隣への配慮が求められます。「周辺住民のみなさんにとっては、けむたい存在かもしれません。それなら、『必要とされる存在』『助かったと思われる存在』にならなければならないと感じていました」と語ります。

きっかけは2010年バケツ稲

地域活動のきっかけとなったのは、2010年の「100万人の食づくり」運動で取り組んだバケツ稲でした。木方センター長が江戸川センターに着任して早々、学校で理科の実験助手をしている組合員から提供の依頼があり、「せっかくなら授業も行ってくれないか」と、教員から提案がありました。この年は、ちょうど「産直いきいき品質」スタート年で、全センターで産直米をテーマにした学習会が行われていたこともあり、「ふたつ返事で了解しました」(木方さん)。

その後、組合員、教員それぞれのネットワークで話が広まり、「お米の授業」は区内4校で実現します。「組合員のみなさんの多くは、子どもを学校や幼稚園などに行かせている世代です。PTA活動や学校行事へ積極的に参加している人も少なくありません。その人脈が生かされたのではないでしょうか」と、木方さんは説明します。

2011年度の実施は前年と同じく4校ですが、田植え、座学、稲刈りと年間カリキュラムとして複数回にわたって組み入れる学校も増えてきました。今後は要望にあわせて内容を組み合わせるようなパッケージ化も、検討していくそうです。

400名近くの小学生が参加しました(江戸川センター駐車場内)

町内会との信頼関係構築

町内会とのかかわりも緊密になるように努力しています。きっかけは町内会費の集金。「お金を払うだけじゃない関係もつくれませんか」と提案したことから、餅つきなど町内会が主催するイベントに参加するようになり、水の提供や野菜を直売するコーナーの出店などを行っています。

今回の避難訓練受け入れに関しては、次のようないきさつがあります。受け入れた学校は現在、建て替えのためプレハブ校舎で授業を行っています。東日本大震災のような大きな津波に襲われた場合、学校は避難場所になり得ず、学校関係者はPTAの元役員たちと避難先を探しているところでした。そこで目に付いたのが江戸川センターだったようです。「トラックが3階まで上がれる建物を見て『スロープで上がれれば安全だし、頑丈そうだ』と目星をつけたみたいです」と木方さんは笑います。「町内会との信頼関係を築くうえで、今回の避難訓練は、大きな糸口となるのではないでしょうか」。

木方センター長が1日先生に。子どもたちは興味津々で学びました

一之江第二小学校をはじめ4校で「お米の出張授業」を実施

今年の苦情は0に

江戸川センターではこのほか、3カ月に1回「センターまつり」や地元企業と連携したイベントなどを実施しています。こうした取り組みが実を結んだのか、2011年度は騒音や振動に対するクレーム件数はまったくなかったそうです。「苦情の理由は、たしかに騒音や振動そのものにありますが、『何をしているか分からない』という不安があるのではないでしょうか」と木方さんは推測します。苦情をいただいていた近隣住民の方とも、今では道で会うと声をかけあう関係になっているそうです。

地域の行事や会合への参加は、土日や勤務時間外の活動も少なくなく、センターにとって大きな負担になりかねませんが、江戸川センターでは、「何をしている施設なのか」「どのような活用方法があるのか」を実例で示す機会ととらえ、積極的に参加しています。その結果、知名度の向上にもつながりつつあり、その延長として、パルシステム利用者の増加といった事業メリットの可能性に期待しています。特に学校とのかかわりは、子どもを通じて家庭に伝わり、隣近所へ伝播していくというクチコミの波及効果が見込めます。それが町内会はじめ地域全体の理解につながり「何をしているか分からない建物」から「地域になくてはならないパルシステム」へと認識が変化していくのかもしれません。

「地域に根ざす」とは

生協では「地域」とか「地域に根ざす」といった言葉をよく使います。地域に根ざすとはどういうことでしょうか。

阪神大震災の際、コープこうべは自らが被災したにも関わらず、地域の復興のために尽力しました。今年発生した東日本大震災においても、全国生協の支援を受けながら、被災した現地の生協は地元地域のためにさまざまな活動を続けています。

地域とは、その土地であり、文化であり、そしてそこに住む人々そのものです。いざというときに地域の人々から頼りにされる…、そんな関係は一朝一夕にはできません。

「実施にあたっては、パルシステムグループ内部も含め、いろんなみなさんに協力してもらっています。すべては人のつながりです。感謝の気持ちは忘れられません」と、木方さんは話します。「組合員」という点が「学校」「町内会」と次々に人のつながりとして広がっていく。江戸川センターの取り組みは、生協が地域に根ざしていくための、ささやかで大きな一歩なのかもしれません。

*本ページの内容は2011年12月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。