国内農業を守り食料自給率を上げる異業種連携組織を旗揚げ(社会貢献活動レポート|2011年3月)
2011年3月1日
日本の食料をめぐる環境が、大きく変わろうとしています。2010年10月、政府は関税を撤廃し貿易を自由化する経済的枠組みであるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加検討を表明しました。参加が実現すると、アメリカなどの「超農業大国」からの安い商品が輸入され、日本の農業や漁業が打撃を受けることが予想されます。現時点(11年3月現在)ではTPPへの参加決定は先送りされているものの、関税を撤廃し貿易を自由化する動きは止まりそうにありません。こうしたなかパルシステムは10年11月から12月にかけて「北部九州食料自給推進協議会」「北海道十勝食料自給推進協議会」の2組織を設立しました。産直産地を中心に、食品メーカー、流通、そしてパルシステムによる”農商工消連携”を戦略的に進め、地域ぐるみで食料自給向上をめざそうという試みです。産直産地で生産される農作物を使用し、消費者に価値を認められるような加工品を開発するというモデルづくりが始まりました。
止められぬ貿易自由化の流れ
本当に日本の農業が危ない!
日本の食料自給率は、今どうなっているのでしょうか。農林水産省が毎年発表する食料自給率(カロリーベース)によると、社会的に大きな話題となった07年(発表は08年)は、40%を割り込んだ39%。その後、小麦価格の高騰による米飯回帰などの要因から1%刻みでありながら上昇していましたが、09年には再び下降し40%に。この数値は1997年から10年以上一定しており、日本人が口にしている食料の6割は海外からの輸入に依存している状況が続いています。
こうした背景から政府は10年3月、「食料・農業・農村基本計画」を策定。10年後の20年までに食料自給率を50%まで引き上げることを目標に掲げています。以前、報道をにぎわせた生産者への「戸別所得補償制度」もその政策の1つです。
一方で政府は、TPPをはじめとする貿易自由化の枠組みについて参加を検討していく方針を打ち出しました。工業製品をより輸出しやすい状況とすることで、停滞気味の経済を成長させるためとしています。しかし、これは海外で価格の安い商品が輸入されやすくなることでもあります。
なかでもTPPは、段階的でありながら例外品目を設けることなく関税を撤廃する方向で協議が進んでいます。参加を表明している国のなかにはアメリカやオーストラリアなど、広大な国土を利用して農作物を生産する「超農業大国」があり、狭小な国土で農業を営む日本にとってはこれらの国々から一方的に農作物が輸入された場合、さらに食料自給率が低下することが危惧されています。
メーカー、行政、流通と生協
それぞれの得意分野でスクラム
産直を活動の大きな柱の1つと位置づけているパルシステムでは、これまでも産直産地の活性化に直結する食料自給率向上をめざし、継続的に取り組んできました。08年から開始した「100万人の食づくり」運動では、「ごはんもう1杯」や「一汁二菜」といった食生活を見直す呼びかけで国産食品の利用を提案するとともに、産直原料を使用した加工品の開発を進めてきました。産直品をそのまま届けるだけでなく、冷凍食品やジュース、缶詰などの原料として利用することで、せっかく生産された作物を有効活用しています。
設立された「北部九州食料自給推進協議会」「北海道十勝食料自給推進協議会」は、こうした活動からさらに踏み込み、産直産地での作付けと商品開発を計画的に進めることで、戦略的に食料自給率を向上させるモデルを構築していくことが狙いです。
「北部九州食料自給推進協議会」では、JAふくおか八女(福岡八女農業協同組合)のほか、産直牛肉の産地であるすすき牧場、パルシステムPBの「圧搾一番しぼり菜種油」を製造する平田産業、畜産流通のマルハニチロ畜産が参加して発足しました。今春にはJAふくおか八女産の米とタケノコを使用した冷凍おにぎりが発売される予定です。「北海道十勝食料自給推進協議会」は、JAおとふけと音更町の参加により設立しました。日本有数の穀倉地帯であるJAおとふけの大豆や小麦、小豆などを生かし、1月に発売された産直大豆を原料とした豆乳などの開発が進められています。
「今後は各社の得意分野を生かした商品開発を進めます。たとえば『北部九州食料自給推進協議会』では、JAふくおか八女で生産された大豆を加工し、平田産業で製造する『圧搾一番しぼり菜種油』で揚げた油揚げなども考えられます」とパルシステム連合会第1商品部の唐笠則雄部長は説明します。
副産物を飼肥料などに活用
資源循環の広がりも期待!
設立した2つの食料自給推進協議会では、商品開発に加えて資源循環型農業についても検討を進めていく方針です。油のしぼりかすといった食品工場で生まれる食品残さは、質の高い飼肥料になります。家畜の〝ふん〟は農地のたい肥になります。これまで廃棄されていたものを〝資源〟とすることで、わざわざ海外から資材を輸入することなく持続可能な農業を実現することにもなります。さらに、こうした資源の有効活用を産業化することによって、地域での雇用が創出され、経済的な活性化にもつながります。
産官学連携に詳しい帯広畜産大学の美濃羊輔名誉教授は、「北海道十勝食料自給推進協議会」設立総会での記念講演で、「生協は現在、転換期を迎えています。消費者である組合員の意見を反映し、生産者とのつながりを深める関係をいかにつくりあげるかが、さらに重要になるのではないでしょうか」と今後の生協と産直について指摘しました。そのうえで「生産者が消費者とつながれば消費者から『この産地なら安心』と思われる農作物になります。貿易自由化が現実のものになれば、農業だけでなく関連する製造業、サービス業が芋づる式に打撃を受けます。その意味でも協議会の設立は、音更にとって安定供給、パルシステムにとって安定調達が実現し、双方ともメリットある関係を築く機会となるのではないでしょうか」と期待しました。
現地でそれぞれ開催された調印式および設立総会では、ともに地元メディアが取材に訪れ、報道されました。これも地域での期待の高さのあらわれとも言えそうです。
人のつながりがうねりをつくる
食料自給率アップの鍵は信頼
「北部九州食料自給推進協議会」の設立総会後に行われた懇親会では、こんな光景がありました。
PB商品の『圧搾一番しぼり菜種油』を製造する平田産業・平田繁實社長とPB商品の豆腐類や揚げなどを製造する共生食品・三澤孝道社長の懇談中の会話です。平田社長が「あなたの会社が作る厚揚げを初めて食べたのだけれど、あれはおいしいねぇ」と話すと、三澤社長は「あれはあなたの会社の菜種油で揚げているんだよ。だからおいしいんだ」と返し、懇談の席が笑いに包まれました。
生産者とメーカーとの連携だけでなく、このようなメーカー同士、生産者同士の連携も今後は広がっていきそうです。生産者、メーカーと消費者の組織である生協が、お金のつながりだけでない信頼関係を築きながらたしかな商品をつくっていくことが、食料自給率向上の鍵となるのではないでしょうか。
*本ページの内容は2011年3月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。