パルシステム千葉の「福祉と環境の循環型農場」有機農業と福祉、雇用の創生へ(社会貢献活動レポート|2010年6月)
2010年6月1日
パルシステム千葉は、NPO法人「NPO支援センターちば」などとともに千葉県野田市で「福祉と環境の循環型農場」づくりに取り組んでいます。地元自治体である野田市や社会福祉協議会などと連携し、遊休農地を活用した農業によるコミュニティ形成の試みです。現在は、市内3カ所の農地を借り受け、「園芸福祉ファーム★お~い船形」と命名された農場で市民参加型の農業を営んでいます。大きな特徴は、名称にも盛り込まれているとおり、障がい者が参加する「園芸福祉」を取り込んでいる点です。参加者が単に農作業をするだけでなく、農業体験を通じて障がい者の自立を促しています。農場の野菜や花は、できるだけ農薬や化学肥料に頼らずに栽培され、隣接する直売所やパルシステム千葉の店舗などに出荷されています。
国内有数の枝豆産地で
遊休農地活用と園芸福祉
千葉県野田市は、千葉県北西部に位置します。都心の通勤圏でもあり、ベッドタウンとして住宅の開発が進んでいます。一方で、ほうれん草や春菊などで全国トップクラスの収穫量を誇るなど、農業が盛んな地域でもあります。なかでも枝豆は、全国トップの出荷額になったことがあるほどの特産品です。
そのため市内には、枝豆をイメージしてデザインされたコミュニティバス「まめバス」が運行しています。運行を開始した6年前は、枝豆が特産品であることを知らない住民がほとんどだったそうですが、コミュニティバスの成功事例として全国へ紹介されるようになり、認知が高まってきたといいます。
「その枝豆と遊休農地の活用、園芸福祉の3課題を見据えて取り組み始めたのが『園芸福祉プログラム』です」と、NPO支援センターちばで園芸福祉事業プロジェクトマネージャーを務める遠藤尚志さんは説明します。
行政や社協、地域と連携
誰でも参加できる農場に
野田市での園芸福祉活動はまめバスが運行を開始した2004年、パルシステム千葉とNPO支援センターちばが共同で、障がい者の枝豆栽培をスタートしました。その2年後の2006年、「園芸福祉ファーム★お~い船形」が設立されます。
お~い船形は、パルシステム千葉とNPO支援センターちばのほか、農場の管理などを手伝うボランティア組織「お~い船形促進隊」、行政の野田市、野田市社会福祉協議会、野田市障害者団体連絡会の6団体がメンバーとなっています。
そのなかでパルシステム千葉は、職員による人的支援や店舗でのレジ袋拠出金の提供、インフラを使用した農業体験の募集、イベントの運営などで支援しています。「支援というより『いっしょにやっている』という認識ですね」(遠藤さん)。
お~い船形で現在栽培しているのは、野菜や花などおよそ30種類。管理は、職員5名が中心となり、30名ほどのボランティアとともに担っています。ボランティアには誰でも参加できます。実際、参加者は会社員や定年退職した方や主婦などさまざまです。遠藤さんは「パルシステムグループの職員や組合員のみなさんも、興味のある方はぜひボランティアに参加してください」と呼びかけます。
農薬などに頼らない栽培
高品質な循環型農業へ挑戦
生産された農作物は、農園のひとつに隣接している直売所やパルシステム千葉の店舗、市場などへ出荷しています。購入者からは「葉の厚みが違う」「甘みがある」「日持ちがいい」など好評です。肥料は、海藻と貝殻を原料としたミネラル肥料や、魚を原料とした有機肥料を活用しています。
訪問した4月には、独自のたい肥センターも稼働へ向けた準備が進んでいました。3月の突風で屋根部分のビニールが吹き飛んでしまい稼働開始が遅れていますが、稼働すれば地域の資源を有効活用する拠点にもなります。「地元にはきのこ生産者や酪農家も少なくありません。しかし、生産で発生する菌床や牛ふんなどは活用されていないのが現状です。また、野田という地域にはもみ殻やしょうゆかすという未利用資源があります。今後はこれらを肥料として有効活用していきたいですね」(遠藤さん)。
また、パルシステムの産直産地でも多く採用されているBMW技術による生物活性水を使用したり、産直産地から栽培指導を受けたりすることで、高品質な資源循環型農業の実現にチャレンジしています。「現代はみかんを食べた鳥が糖尿病にかかるほど栄養の偏った農作物もあると聞いています。農業体験にとどまらず、微量ミネラルが豊富で、商品価値の高い農産物の栽培も大きな目標のひとつです」と、遠藤さんは語ります。
授産プログラム化を目指した
全国でも珍しい取り組み
園芸福祉は、構成メンバーとなっている野田市障害者団体連絡会、野田市社会福祉協議会と連携し、障がい者や高齢者など、さまざまな人々の農業体験を受け入れています。「みなさん土に触れ、外で作業すること自体を楽しんでくれています」(遠藤さん)。
なかには、高齢者の施設からは行動が落ち着かない利用者を受け入れたところ改善したという事例もあります。地域の聴覚障がい者とその家族が訪れた時には、目の見えない子どもたちがうれしそうに土の上を駆け回っていた光景が印象的だったそうです。
お~い船形では、園芸福祉プログラムとして花の植え付けや草取りなどを提供していますが、単に農業体験を通じた“癒しの場”としては位置づけていません。遠藤さんは「たとえば障がい者であれば、自立へ向けた次のステップへ上がる支援も必要です」と説明します。
そのひとつが、収穫した農産物を出荷用にパックする作業の提供です。野菜を袋詰めする作業プログラムは、1日あたり10名程度の障がい者を受け入れています。将来的にはさらに上のステップとして、一定の工賃を支払う授産プログラムに発展させたい考えです。さらに、農作物の本格的な栽培に取り組めるプログラムを用意することも視野に入れています。
遠藤さんは現在、当番制で土曜、日曜も農場の管理作業を行うことがあり、当番の日は、好きなJリーグチームの試合観戦をあきらめなければなりません。「農業は曜日どおりに進みませんから。でも農業体験した子どもが、虫を嫌いじゃなくなったとか、苦手な野菜が食べられるようになったとか、そういう話を聞くと、この活動から離れられなくなってしまいますね」とうれしそうに語る遠藤さん。遠藤さんが気兼ねなく毎週サッカーを見に行ける日は、しばらく来そうにありません。
*本ページの内容は2010年6月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。