組合員と無理せず楽しく地域活性化 静岡県での「里山酒米ぷろじぇくと」(社会貢献活動レポート|2013年9月)

2013年9月1日

自分たちで米を作り、その米で酒を造る―パルシステム静岡の有志が中心となって活動する「里山酒米ぷろじぇくと」。2年目を迎えた今年は、当初50名だった参加人数が100名に倍増。耕作用の田んぼも、2反(1反はおよそ1000平方メートル)から3反半へと増えました。
今回、その田んぼや酒蔵などを案内してくれたパルシステム静岡副理事長の上田由紀さんは、中心的な役割を担うひとり。「参加者には、米作り、酒造りという目的だけでなく、田んぼで生きものと触れ合い、収穫を喜び、酒で祝うなど、いろんな寄り道をして楽しんでほしいですね」と話します。その願いを受けるかのように、田んぼで遊んだり、草取りをする参加者家族の姿はあとを絶ちません。
農家、酒造メーカー、消費者などが一体となり、みんなで楽しむ活動が、小さな規模ながらも耕作放棄地を解消し、地域の産業を活性化させ、地域のコミュニティを豊かにしているようです。

無農薬の田んぼだから、子どもも安心して遊ばせられます。「タニシがいたよー」

(左から)パルシステム静岡の岩元専務理事と上田副理事長、神沢川酒造場の望月専務

子どもが安心して遊べる田んぼ
お酒と聞いてお父さんも…

「里山酒米ぷろじぇくと」が2013年に田植えをした田んぼは、全部で8枚、面積で3反半(およそ3500平方メートル)になります。米は、化学合成農薬と化学肥料を使用せずに栽培されています。

「稲に栄養を行き渡らせる必要から、株ごとの間隔を通常より開けなければならないためすべて手植え。田植え機では設定できない間隔幅なんです。昨年は10俵(600キロ)を収穫できました。今年は、面積も増えたので18俵は確保したいですね」と、上田さんは話します。

田んぼの草取りも参加者が行います。この日も、参加者の組合員のひとりが子どもを連れて草とりをしていました。話しかけると、「近所にも田んぼはあるのですが、農薬の影響からか、オタマジャクシが大量に死んでいる光景も目にします。他人の田んぼということもありますし、子どもを遊ばせることはできませんが、ここなら安心です。それに、通常の田んぼ体験には、夫がなかなか来てくれませんでしたが、お酒になると聞いて喜んで参加するようになりました(笑)」と、作業の手を止めて話してくれました。この間も子どもたちは、泥だんごをつくり、めだかやトンボ、タニシなどを見つけては、虫かごに入れて、楽しげに遊んでいました。

遊休農地活用で地域も歓迎
23体のかかしは地元の名物に

米を栽培する田んぼは、遊休農地を活用しています。「高齢化で農業の担い手が不足し、耕作できない農地が増えているというのが、農村地域の現実です。これは全国共通ではないでしょうか。そして、地域の願いは、田んぼが田んぼであり続けること。それに協力するだけでも、立派な地域貢献になるはずです」と、パルシステム静岡専務理事の岩元一豊さんは語ります。

近くに住む西嶋義廣さんも「地域は高齢化が進み、耕作できなくなった人も増えています。これからもどんどん人を増やして、遊休農地を田んぼにしてほしいですね」と話します。

米作りを始めた当初は、人手不足から雑草取りが追いつかず、「隣の田んぼに迷惑をかけるだろう」と、西嶋さんが叱りつけたこともあったそうです。それでも、急な大雨のときに雨宿りさせたり、農機の使い方を教えたりしているうちに応援したい気持ちになっていったと言います。「一生懸命やっているから、地域の人もみんな応援していますよ」。

ぷろじぇくとに参加していない人にも訪れてほしいと「かかし」を広く募りました。寄せられたかかしは23体。パルシステムのキャラクターのこんせんくんや、宮崎駿さんの映画に出てくるキャラクターなどをかたどったものなど、バラエティ豊かで、田んぼに新しい彩りを与えています。

「かかしをひとつの名物にして、ひとりでも多くの人に田んぼを訪れてもらえるといいと思っています」という上田さんの言葉通り、実際、写真を撮りにわざわざ田んぼを訪れる人も現れており、地域の″新名所〟になりつつあります。

こんせんくんかかしは、ちょっとくたびれ気味!?

子どもが作った米で酒を造り飲む
「お金を積まれてもできないぜいたく」

収穫した酒米は、パルシステムでもおなじみの『正雪』や「料理用清酒」を製造する酒蔵、神沢川酒造場で日本酒へと生まれ変わります。専務の望月正明さんは、訪れた当日も自ら田んぼを訪れ、草取りを手伝っていました。

「酒蔵で働く者として、以前から米作りに関わりたいという願いがありました。土にまみれて汗を流すのは、酒造りとは違う気持ちよさがありますね」(望月さん)。

昨年、神沢川酒造場では、酒米およそ600キロで800リットルの日本酒を醸造しました。「酒米の量が少なかったので、精米できる施設を探すのもひと苦労でした。精米歩合(米を削る割合)も、当初は60%を予定していましたが、67%まで引き上げました。それでも、仕込みに使用する樽は『こんなに小さいの?』と言われるほどでした」(望月さん)。

酒造りを担う神沢川酒造場

収穫した米を仕込んだタンク

ちなみに、精米で発生した米粉は、パンや菓子に、ぬかは田んぼに肥料として使用するなど、地元で余すところなく使用。地産池消を実現しています。とくに酒用の精米で発生する米粉は、柿の種などに適しており、焼くとパリッと香ばしく仕上がるということです。

望月さんには2つの夢があったそうです。ひとつは先述の「米作りから関わる」こと、もうひとつは「子どもが作った米を使って酒を造り、それを親や祖父母が楽しむという場面をつくる」こと。

「そんなぜいたくは、いくらお金を払ってもできません。昨年の参加者の話では特におじいちゃん、おばあちゃんが大変喜ばれたそうですよ」(望月さん)。

地域に『小さな資源と経済の循環』を創る

昨年の稲は2013年春、日本酒となり、1升ビン100本、4合ビン880本に詰められました。「どんぶり勘定で『まずはやってみよう』と走り始めた割に、参加費と商品代金で収支はぴったりトントンでした。今後も続けて、年間を通じてみんなが農業や食に思いをはせる場所になればいいなと思います」と、上田さんは思いを語ります。

その手始めとしてパルシステム静岡では、「里山酒米ぷろじぇくと」での農業体験を職員を対象とした研修の一環に組み入れました。「これをきっかけに、それぞれの地域にこうした『小さな資源と経済の循環』を創っていければ」と、岩元さんは展望を語ります。

望月さんは「日本酒造りは世界の酒に比べても製法が複雑で、さらに日本の米、日本の風土がいちばん適していると思います。TPP参加などで経済の自由化が叫ばれますが、地域で経済を回し、そこでしかできないことに取り組んでいけば、活路を開けるのではないかと考えています」と言います。

遊休農地を活用し、米を作り、その米で酒を造り、副産物を活用することでさらに地域に資源が循環していく―。「里山酒米ぷろじぇくと」の活動は、全国的にみれば小さな規模ですが、活動そのものが、地域をつなぐ無形の資源になっていくことは間違いないでしょう。

*本ページの内容は2013年9月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があります。 あらかじめご了承ください。