東日本大震災からの10年を振り返るシンポジウム 10年の想い 次世代へ

2021年3月16日

パルシステム連合会は3月11日(金)、オンラインで「東日本大震災から10年 想いを未来へつなぐ3.11シンポジウム」を開催し150人が参加しました。被害にあった産直産地や食品メーカー、支援団体などからの関係者が、報告とパネルディスカッションを通じてこの10年間を振り返りました。

開会冒頭にあいさつしたパルシステム連合会理事長の大信政一は「私たちは東日本大震災からの10年間、多くの大規模災害を経験し支援活動に取り組んできました。いま、新型コロナウイルスの感染拡大は、東日本大震災と原発事故を想起するような社会的分断を生んでいます。このシンポジウムで10年間の活動を振り返り、未来につながる議論にしていきましょう」と呼びかけました。

報告は、産地やメーカー、支援団体の5名からそれぞれ発表がありました。発言内容は次の通りです。(敬称略)

「風評被害が本当の災害」JA会津よつば(福島県:米)富山裕治

原発事故は消費者の信頼を一瞬で失いました。いま思えば、事故後の風評被害が本当の災害だったとも感じます。全国的にも評価の高かった福島県産米の行き場はなくなり、いまも回復していません。そんななか、生産者も理解しようとするパルシステムのサポートは励みになりました。私たちは、生命を守り維持するための食料を供給しています。コロナ禍を乗り越え、復興していく決意です。

「組合員が再開へ背中押した」株式会社花兄園(宮城県:鶏卵)大須賀木

福島第1原発近くにある農場の立ち入り規制が緩和され鶏舎に入ると、ケージのなかにたくさんの卵が残されていました。いまも思い出してはつらい気持ちになります。再開に向けては、パルシステムの支援や期待の声が背中を押してくれました。震災では、生産者の安全と消費者の安心の差が風評被害になっていることを知りました。震災と原発事故の教訓を忘れないよう、率先して伝えていきたいと思います。

「励ましの声を糧に着実に」水野食品株式会社(宮城県:水産)水野茂

震災後は、廃業も選択肢に浮かびましたが、2週間で再開を決意しました。その大きな要因は、多くの組合員のみなさんによる励ましの声です。イソップ童話のカメのような会社ですが、少しずつ着実に再建を進めることができました。この数年は、経営も安定したことで新しい販路も開拓できています。それも、パルシステムによる安定した利用があるからです。これからも、食卓の笑顔と「おいしいね」を思い浮かべ、その光景がかなうような商品を作り続けたいです。

「敷居の低い居場所づくり」NPO毎週末山形(山形県:保養)佐藤洋

自宅に避難者を受け入れ、共同生活を送る数週間で、保養支援を思い立ちました。2013年からパルシステムと週末保養活動をスタートしています。目的は、遊びの機会を奪われた子どもと、悩みを相談できる保護者の居場所づくり。敷居の低い保養で「もうひとつのくらしの場」を目指しています。みんなで語り合うことで、参加者が無意識に防災マネジメント能力を培っているように感じます。現在はコロナ禍で活動を休止していますが、まず励ましあう場はさらに必要になっていくと感じます。

「漁業は『震災前』望まない」パルシステム茨城 栃木(南三陸支援)茅根誠

現地で農林水産業に従事するプレーヤーと組合員のサポーターで構成する「南三陸町サポーターズ倶楽部」を2016年にスタートさせました。商品購入で経済支援し、体験交流で地域活性化を応援しています。活動を通じ「取り戻す」でなく将来へ発展する視点が重要だと感じています。たとえば漁師は、震災前の漁業に戻ることを望んでいません。経済利益優先で環境に負荷をかけるのでなく、持続可能な地域づくりを志向するからこそ、次世代担い手が生まれています。

 

パネルディスカッションは、産直や電気の生産者と消費者4名が登壇し「未来を語る 東日本大震災からの教訓と今後」をテーマに議論しました。登壇者の主な発言は次の通りです。(敬称略)

「公開確認会で原点戻れた」JAつくば市谷田部(茨城県)原木しいたけ生産者 飯泉厚彦

原発事故で原木から放射性物質が検出され廃業が頭よぎりましたが、みなさんの支援とメッセージを励みに生産を続けることができました。生産者として原点に戻れたのは、5年後の2016年に開催された公開確認会※です。当初はためらいがありましたが、実施して本当に辞めなくてよかったと実感しました。一方で、福島の原木は利用できない状態が続いています。原木産地への支援や交流を続け、安定した原木しいたけの生産を続けていきたいです。

「JAつくば市谷田部公開確認会」(パルシステム東京)

「ソーラーシェアで復興支援」株式会社森のソーラー(茨城県)高橋恭嗣

原木しいたけ生産者が中心となり、栽培施設屋上に太陽光発電設備を設置したソーラーシェアリングを展開することで収益を復興支援に活用しています。2017年から売電を開始し、現在は3カ所で発電した電力がパルシステムを通じて組合員に供給されています。パルシステム茨城栃木は、会社設立にあたっての手続きや交渉に奔走してくれました。ソーラーシェアの下でできるしいたけは、肉厚でおいしいです。将来は「ソーラーしいたけ」と名付けて届けられればと思います。

「再エネ当たり前の社会に」株式会社パルシステム電力 野津秀男

原発事故被害の大きかった地域を訪れると、抱える課題は多種多様です。そしてその立場の違いがさらに分断を生んでいます。こうした現実を目の当たりにし、原発事故は二度と起こしてはならないと痛感します。現在、パルシステムでんきの利用は約4万世帯です。もっと利用を呼びかけて生産者の応援につなげ、再生可能エネルギーが当たり前の社会をつくっていきたいと思います。

「“自分で選ぶ”伝えたい」パルシステム埼玉組合員 長妻さよ子

東日本大震災が発生するまで「電気がどこで作られているか」という関心がおよんだことはありませんでした。いまは食べ物と同じように、電気も購入通じて生産者を応援したいという気持ちです。けっして人任せにせず、自分で選んで使うように心がけることが大事だと感じています。みなさんの話を、家族や組合員など、多くの人に伝えたいです。

開会にあたり、パルシステム連合会環境委員会の高野祐子委員長(常任理事、パルシステム福島理事長)は「福島在住のひとりとして、心に響く声が多くありました。人と人がつながることで、前へ進むことができると思います。みなさんが語られた教訓を基に、持続可能な社会の実現をみんなで目指していきましょう」とあいさつしました。

▽YouTube動画リンク
「東日本大震災10年 想いを未来へつなぐ」~復興支援の歩みから未来を語る

東日本大震災から10年 分断を乗り越え持続可能な社会を次世代へ|2021年3月11日