「檻」と「ライオン」で憲法を正しく解く 楾弁護士の憲法学習会を開催

2018年11月7日

パルシステム連合会の地域活動委員会は10月11日(木)、東京・新宿区の東新宿本部にて、ひろしま市民法律事務所所長で弁護士の楾(はんどう)大樹さんをお迎えし、憲法学習会を開催しました。

当日は会員生協でのパブリックビューイングを含め、約110名が参加しました。

昨年の衆院選で「憲法改正」を掲げる与党が3分の2以上の議席を獲得し、憲法についての注目が高まっています。10月26日には自民党憲法改正推進本部の下村博文本部長が、党の衆院小選挙区支部に憲法改正推進本部を設立し、改憲実現に向け世論の機運を高めることを示しました。

開会にあたり地域活動委員会の田原けい子委員長(パルシステム埼玉理事長)は、「“憲法は何のために、誰のためにあるのか”をあらためて勉強したい。楾弁護士の講演は各地で、おもしろくわかりやすいと大人気なので楽しみです」と挨拶しました。

憲法は誰が守るもの?

冒頭、楾弁護士はクイズを出しました。「憲法を守らなければいけないのは誰でしょう? 答えは憲法第99条(※1)に明記されています。憲法を守らなければいけないのは天皇や公務員です」との説明に、会場から「えーっ」という声も。「先日、教職員の講演で質問したら、答えはほとんど“国民”でした。憲法の三原則の一つ、国民の基本的人権を尊重すべき人も同じです」。しかし楾弁護士は小6の社会の教科書3社分を示して、その記述がないことを指摘しました。

ライオンと檻

私たち人間は「人間らしく幸せに生きていきたい」という同じ思いを持ち、それを全うする権利としての「基本的人権」があります。しかし考え方や価値観、個性などの違いは時として争いを招き、それを乗り越え共存していくために、頼りになるまとめ役として政治や“国家権力”が生まれました。楾弁護士はこれを“ライオン”に例えます。

「ライオン(国家権力)は正しく使われると役に立ち、みんなを幸せにする道具ですが、一方、誰かのためだけに使ったり、暴れだしたら止められない恐ろしい一面もあります。なきゃ困るが、暴れないようにしないといけない。じゃあ檻の中に入れておけば安心だ。この“檻”に当たるものが“憲法”です」。

ライオン(国家権力)は憲法という檻のなかで政治を行い、法律を作り、私たちが人間らしく幸せに生きていけるよう取り組まなくてはなりません。「憲法はライオンが噛み付いてこないよう私たちを守ったり、行動を規制するためにあるんです」。

檻を壊すライオン

「しかし数年前からライオンが檻から出ていたり、檻自体が変なことになっていて、とても危機感を感じています」と楾弁護士は言います。自民党の憲法改正草案では、97条(※2)が丸ごと削除され、前文では「日本国民は」「われらは」など人が主語なのが、草案では「日本国は」と国が主語に。第9条では(※3)自衛隊の権利は自国が攻められたときの個別的自衛権だったのが、自国以外が攻められた場合もそこに行って闘う「集団的自衛権」に広げています。「憲法の根底をひっくり返すような考え方が垣間見える」と楾弁護士は指摘します。

檻は自分たちで守る

「ここ数年、なんとかしなくてはと法律家として奮い立つものがあり、本業そっちのけで(笑)飛び回っているわけです」と語ります。続けて「でも肝心の主権者、国民が憲法を良く知らず、何が問題なのかわかっていないようにも見えるのです。国民一人ひとりがライオンの動きや発言を監視し、檻を壊していたら、だめじゃないかと言わなければだめです。第12条(※4)に自分の自由や権利は自分で守る努力をするようにと書いてある。そうしないといつのまにかライオンに支配されてしまう」と訴えます。そして「憲法を知る努力をし、おかしいと思ったらみんなで声を上げる、選挙に行き民意を示す。投票には必ず行ってほしい。私たち人間としての権利や幸せを守るために」と結びました。

パルシステム連合会の髙橋宏通常務執行役員は「憲法や平和についてカタログに掲載すると、組合員から『なぜ“政治的なこと”を取り上げるのか』という声が上がることもあります。しかし安全・安心なくらしや商品づくりは、そもそも平和や自由や人権が保障されていなければ成り立たない。組合員のみなさんにきちんと丁寧に伝えていくことが重要だと思っています」とまとめました。

 

参考
※1 第99条
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

※2 第97条
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

※3 第9条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

※4 第12条
この憲法が国民に保障する権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。(以下省略)