TPP(環太平洋連携協定)参加交渉に対する当会の見解について
2010年11月18日
現在、TPP(環太平洋連携協定)交渉へのわが国の参加の是非をめぐり、政府・国会内や各界においてさまざまな議論が行われています。パルシステム連合会は、日本がTPPに参加することに対して以下のように考えています。
はじめに
- 国際社会の一員としての役割を担うことは、現在のグローバル経済の中では大切なことです。しかしそのルールは特定の国を利するものではなく、国際協調・相互扶助の理念を基礎とした、参加国すべてがあまねく恩恵を受けることの出来るものでなければなりません。大国の輸出政策に翻弄されることなく、自国と他国との関係も含めた、中長期的展望に立った外交政策が求められています。
- また「自由貿易」を考えるにあたっては、農業に対する国民の理解が重要です。例え輸入自由化になり、安価な海外農産物が日本に流入してきても、国民が主体的に国内産の農産物を選び、国内の農業を守り、支援していくことが必要です。また食料安全保障を国家戦略として明確に位置づけ、諸施策を実施していくことが必要です。しかし残念ながら現状ではそのような段階には至っていません。
- 国内農業の維持・発展は、農業の多面的価値、食の安全の確保、食料安全保障など、様々な機能や価値を持っています。この価値や機能を市場原理・経済原理に基づいて他国に委ねてしまうことの危険性と損失については、全国民でもう一度考えるべき時期にあると考えています。今こそ、私達は自然への眼差しを取り戻し、「農」を礎にした日本のありかたを考えるべきです。
TPP参加に対するパルシステムの考え方
- 日本の農業が発展するための現実的かつ妥当な総合的政策が明らかにできない限り、TPP交渉への参加には反対します。日本政府に対し、以下の要求をしていきます。
- 日本の農業が発展するための政策が明らかにできない限りTPP交渉への参加を行わないこと。
- 日本の農業を維持・発展させ、国際的競争力を身につけていくための農業支援策を講じていくこと。
- 国民に情報を提供し、「農」を礎にした日本のあり方について国民レベルの議論を組織していくこと。
- 現政権のこれまで政策は、東アジア圏を軸とした連携(ASEAN+3)という構想であったはずです。この政策を突然変更し、アメリカ、オーストラリアといった「超農業大国」との提携に軸足を移すことについては疑問が残ります。他国の輸出政策に翻弄されることのない中長期的展望にたった外交政策を堅持し、併せて農業や産業への影響、環境への影響など、自由貿易が参加各国にもたらす影響を多面的に検討すべきです。
- TPPへの参加について政府内・国会で充分な議論がなされているとは言えません。国民に対して充分な情報提供がなされておらず、国民の理解を得られているとは言えません。TPPへの参加により日本の農業、や関連産業、地域社会が大きな打撃を受けることは必至であるにも関わらず、これに対する具体的な施策は見えてきません。日本の農業の維持発展には、国民が日本農業の多面的価値、大切さを理解することが重要です。
- TPPへの参加は日本の食料自給率の低下させる懸念があり、ただでさえ脆弱な日本の食料安全保障をさらに弱いものにしてしまうおそれがあります。食料自給率の向上=食料安全保障を優先課題として位置づける必要があります。TPPへの参加をめぐる今回の議論を、農業の多面的価値、食料安全保障、食の安全など、「農」を基礎とした日本のあり方を全国民で考えるきっかけとすべきです。
- パルシステムではこれまで通り、「食料・農業政策」をはじめとするパルシステムの諸政策に基づき、国内農業の発展と安定をめざした産直事業を進めていきます。これらの事業・活動を通じて、日本の国民全体が農業の多面的価値を評価し、その大切さを理解する活動を進めていきます。
以上
【見解に関する補足資料】
- 各国との経済交渉にあたっては、他国の輸出政策に翻弄されることのない中長期的展望にたった外交政策が必要です。併せて、農業や産業への影響、環境への影響など、自由貿易が参加各国にもたらす影響を多面的に検討すべきです。
- TPP(環太平洋連携協定)交渉へのわが国の参加の是非をめぐり、政府・国会内や各界においてさまざまな議論が行われているなか、11月13、14日に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、APECの将来像として三つの「共同体」などの地域間連携を発展させるという方向性も含んだ「横浜ビジョン(※1)」を採択し、閉幕しました(三つの「共同体」とは「東南アジア諸国連合(ASEAN)」「日中韓(ASEAN+3)」「環太平洋経済連携協定(TPP)」のこと)。
- 現政権のこれまで政策は、東アジア圏を軸とした連携(ASEAN+3)という構想であったはずです。この政策を突然変更し、アメリカ、オーストラリアといった「超農業大国」との提携に軸足を移すことについては、多くの分野からさまざまな疑念が出されています。
- 日本について言えば、TPPに参加表明をしている9カ国のうち、すでに5カ国とEPAをすでに締結しており(米などの重要農産品を例外とする)、未締結のペルーとも締結に向けた交渉が進んでいます(※2)。このような状況下で例外なき関税撤廃であるTPP(※3)に参加すると言うことは、「農業輸出の超大国」から一方的に農作物が大量に流入してくるだけになりかねず、工業製品の輸出振興などの新たな恩恵は少ないとの指摘もされています。
- 自国の利益だけではなく参加国全体を考える必要もあります。過去、自由貿易は欧米各国による穀物類のダンピング政策(輸出補助金)により、開発途上国の農業を壊滅させたとの指摘があります。農産物の関税の完全撤廃は農業輸出大国(アメリカ、EU、オーストラリア)の利益と、多くの開発途上国の不利益とを生みだす懸念があります。自由貿易は本当に参加各国に均等な恩恵を与えうるものなのか疑問が残ります。
- 明確な展望のない中での突然の政策変更は、農業輸出超大国の輸出政策に翻弄された外交政策の表れと言わざるを得ません。他国の輸出政策に翻弄されることなく、中長期的展望にたった外交政策が必要です。
- また途上国の農業の壊滅と併せ、砂漠化の進行など、生態系保全・生物多様性にとって破壊的な作用が予想されるとの指摘もなされています。
- TPPが特定の国を利するものではなく、国際協調・相互扶助の理念を基礎とし、参加国すべてがあまねく恩恵を受けることが出来るのか、農業や産業、環境への影響はどうかなど、自由貿易が参加各国にもたらす影響を多面的に見直す必要があります。
- TPPへの参加について政府内・国会で充分な議論がなされているとは言えません。国民に対して充分な情報提供がなされておらず、国民の理解を得られているとは言えません。
- 現段階においても政府内の見解は統一されておらず、TPP参加後の動向についても複数の異なる試算が出されている状況です。議論の大前提となる基礎データがそのような状態では、充分な論議がされる以前の段階と言わざるを得ません。
- 当然ながら国民に対して判断・合意に足る情報が提供されているとは言えません。TPPへの参加は自国の行く末に大きな影響を及ぼす決断です。国民への充分な情報提供と、多くの国民の合意が大前提であると考えます。
- TPPへの参加により日本の農業、や関連産業、地域社会が大きな打撃を受けることは必至であるにも関わらず、これに対する具体的な施策は見えてきません。日本の農業の維持発展には、国民が日本農業の多面的価値、大切さを理解することが重要です。
- 関税が例外品目なく100%撤廃となった場合、国内の農業が大きな打撃を被ることは必至です。アメリカやオーストラリアの農業の規模や社会的条件に対しては、国内では最大規模の北海道の農業ですら太刀打ちすることはかないません。
- 現状でさえ、農業人口の減少・高齢化や耕作面積の縮小、世界的不況による原油・肥料・飼料等生産資材価格の高騰などで経営的に厳しい状況にある国内の農業は、低価格の農畜産物の大量流入により決定的な打撃を受けることが予測されます。さらには、食品加工をはじめとする関連産業が消費地近郊へ集中することで地域の雇用も失われ、地域社会そのものが大打撃を被ることも必至です。
- 「包括的経済連携に関する基本方針(※4)」では、「農業構造改革推進本部(仮称)を設置し」、「持続可能な力強い農業を育てるための対策を講じ」、「わが国の食料自給率の向上や国内農業・農村の振興」を図るとしていますが、この基本方針からは何ら具体的な施策は見えてきません。
- 日本の農業が経営力や競争力を持つことはもちろん必要なことです。しかしこれは一朝一夕で実現できることではありません。関税撤廃にあたっては、日本の農業が競争力を身につけていること、もしくは日本の農業が発展するための現実的かつ妥当な総合的政策が明らかになっていることが大前提であると考えます。
- 加えて日本の農業に対する国民の理解が重要だと考えます。しかし残念ながらまだまだ不充分です。国民の日本農業の多面的価値、大切さへの理解が進んではじめて自由貿易へのハードルが下がると考えます。
- TPPへの参加は日本の食料自給率の低下させる懸念があり、ただでさえ脆弱な日本の食料安全保障をさらに弱いものにしてしまうおそれがあります。食料自給率の向上=食料安全保障を優先課題として位置づける必要があります。
- 本年8月、ロシアが異常気象による穀物の減産により小麦・大麦等の輸出を禁止したことは記憶に新しいところです。現在、ロシアを含め11カ国でのべ18品目の輸出規制が行われています(※5)。
- 自国民の食料を確保するということは国家として最低限の安全保障であり、自国に必要な食料を確保するために輸出規制を行うことは当然のことと思います。
- 異常気象、途上国の経済発展による需要増大、バイオ燃料による需要増大など、世界の穀物事情が逼迫していく中で、食料の60%を海外に依存している日本の食料自給率は主要先進国の中で飛びぬけて低い水準であり、非常に脆弱な食料安全保障体制にあると言えます。
- 国際社会の一員としての役割を担うことは、現在のグローバル経済の中では大切なことです。しかし国家として自国民の最低限の安全保障を確保することはそれに優先する課題です。
- アメリカもEU諸国も自国内の農業には手厚い保護政策を講じています。食料自給率の向上をはかるとともに食料安全保障を国家戦略として明確に位置づけることが必要不可欠であると考えます。
- TPPへの参加をめぐる今回の議論を、農業の多面的価値、食料安全保障、食の安全など、「農」を基礎とした日本のあり方を全国民で考えるきっかけとすべきです。
- 私たちは農業を単なる食物生産の手段とは捉えていません。農業が営まれ、農村が維持されていることによって提供される国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承などの「農業の多面的価値」は、日本国民すべてが恩恵を受けるべき財産です。
- また自国内で生産し、加工し、消費することにより、「食」と「農」の距離は近づき、食の安全性はより高いレベルで維持されると考えています。
- 国内の農業を維持・発展させることは、農業の多面的価値、食の安全や食料安全保障を確保することでもあります。この価値や機能を市場原理・経済原理に基づいて他国に委ねてしまうことの危険性と損失については、全国民でもう一度考えるべき時期にあると考えています。今こそ、私達は自然への眼差しを取り戻し、「農」を考えることによって将来を見据えた日本のありかたを、問うていきたいと考えます。
以上
【参考資料】
※「横浜ビジョン」
横浜で開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議において、11月14日に採択された首脳宣言。主な骨子は以下の3点。
- FTAAPの実現をAPECの目標として、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓(ASEAN+3)や環太平洋経済連携協定(TPP)などの地域間連携を発展させる
- APECとして初めて策定した成長戦略を基に、構造改革やグリーン成長などに焦点を当てた着実な実現を目指す。財政・金融面での取り組みも強化する
- 貧困削減やテロ対策、自然災害対策のための取り組み強化
※2 「TPPへの参加表明国およびEPA締結国」
TPPへの参加表明国 | TPPへの参加表明国の中ですでに日本とEPAを締結国している国 |
---|---|
シンガポール | シンガポール(2002年11月発効) |
マレーシア | マレーシア(2006年7月発効) |
チリ | チリ(2007年9月発効) |
ブルネイ | ブルネイ(2008年7月発効) |
ベトナム | ベトナム(2009年10月発効) |
ペルー | ※交渉中 |
アメリカ | |
オーストラリア | ※交渉中 |
ニュージーランド |
※3 「これまで締結してきたEPAとTPPとの関税の撤廃に関する違い」
【これまで締結してきたEPA】
- 貿易総額の90%の関税を10年間で撤廃(交渉締結時に即時撤廃し一部を10年間で段階的に撤廃)。
- 残りの10%の関税は除外・例外扱いとし重要品目にあてる。
【TPP】
- 貿易総額の90%の関税を交渉締結時に即時撤廃。
- 残りの10%の関税を10年間で段階的に撤廃。
※4 「包括的経済連携に関する基本方針」
平成22年11月6日に「包括的経済連携に関する閣僚委員会」がまとめた方針。農業分野については、「単に貿易自由化により最も影響を受けやすい分野であるばかりではなく、農業従事者の高齢化、後継者難、低収益性等を踏まえれば、将来に向けてその持続的な存続が危ぶまれる状況にあり、競争力向上や海外における需要拡大等わが国農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応が不可欠である」とした上で、「内閣総理大臣を議長とし、国家戦略担当大臣及び農林水産大臣を副議長とする「農業構造改革推進本部(仮称)」を設置し」、「高いレベルの経済連携の推進とわが国の食料自給率の向上や国内農業・農村の振興とを両立させ、持続可能な力強い農業を育てるための対策を講じる」としている。
※5 「各国の輸出規制の状況」
ロシア | 小麦大麦等(輸出禁止) |
---|---|
ボリビア | 小麦等(輸出禁止) |
アルゼンチン | 小麦・小麦粉・トウモロコシ・大豆(輸出枠設定・輸出税賦課) |
ネパール | 米・小麦・豆類(輸出禁止) |
台湾 | 米(輸出許可制) |
バングラディシュ | 米(輸出禁止) |
インドネシア | 米(輸出禁止) |
インド | 小麦・米(輸出禁止) |
エジプト | 米(輸出許可制・輸出税賦課) |
モロッコ | 小麦・大麦・米等(輸出ライセンス制) |