「介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等」へパブリックコメント 誠実な事業運営を維持できる改定を求めます
2015年3月3日
パルシステム連合会は3月3日(火)、「平成27年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等」に対し、パブリックコメントを提出しました。実態を踏まえない報酬改定と考え、誠実な事業運営ができる制度の構築を求めます。
厚生労働省社会保障審議会は2月6日(金)、2015年度に予定する介護報酬改定とそれにともなう関係告示を一部改正することを厚生労働大臣へ答申しました。これを受け、政府では国民からの意見(パブリックコメント)を3月11日(水)まで募集しています。パブリックコメントは、行政機関などが新たな政策や規則などを定める際に、国民から広く意見を募集する手続きのことです。
介護報酬改定に対しパルシステム連合会は、介護事業の特性や実態を踏まえない報酬改定と考えます。事業者にとって経営見通しの不確実性につながり、大きな投資や人材の安定的雇用が図れない事態は、介護福祉分野全体において大きな問題を生みかねません。利用者に対する質の高いサービス提供とこれまでのサービス維持、スタッフの生活保証など、誠実な事業運営ができる状態が保たれるよう意見します。
パブリックコメントで要求した基本意見は、以下の通りです。
- 基本報酬を一律に引き下げ、加算の取得により事業収支を維持する体系へと転換されました。多くの加算が新設されても加算取得のための作業負担が大きく、効率運営が求められる構造になっています。これにより、特に事業収支が圧迫される小規模事業所で、利用者のサービスの質の低下が懸念されます。介護保険の本来の目的に立ち返った報酬体系へと戻していくべきです。基本とされるサービスの質を評価し、実態に合った報酬減算をすべきです。
- 事業収支の圧迫は、介護職員における継続雇用への不安を生みます。政府発表を基に報道された介護職員の賃金1万2千円アップは、介護職員処遇改善加算によって支給されます。現行の制度で既に取得している場合、報道されている額まで上がらないのが実情です。実態を正確に掌握し、それに即した加算とするなど、介護職員の期待を裏切らないようにすべきです。
- 予防通所介護の基本報酬が大きく引き下げられました。報酬改定後、収支差から考えると、新規に予防の利用者を受け入れることは現実的に不可能です。このままでは、地域にサービスを提供する事業者がいなくなることが容易に想像でき、サービスを受けたくても受けられず、予防状態から要介護状態に悪化する人が増えるなど、国が目指す方向とは逆に作用するのではないかと懸念します。予防サービス事業者が消えてしまわないよう配慮すべきです。
提出したパブリックコメント全文は以下の通りです。
塩崎 恭久 殿
代表理事 理事長 山本 伸司
私たちパルシステムグループは首都圏約140万世帯の組合員を擁する生協です。これまで、くらしを支えるという視点から組合員への商品供給だけではなく、介護保険事業にも取り組んでいます。私たちグループの介護職員は、協同組合の志を持ち、利用者の視点にたったケアを真摯に実践しています。
2015年度介護報酬改定は、業種の異なる中小企業の収支差率2.2%との比較を基に介護報酬減算とされました。このような介護事業の特性や実態を踏まえない報酬改定では、経営見通しの不確実性につながり、大きな投資や人材の安定的雇用が図れないといった事態も生じかねず、ひいては介護福祉分野全体において大きな問題を生みかねません。
今後とも、利用者に対する質の高いサービス提供とこれまでのサービス維持、介護にあたるスタッフの生活保証など、誠実な事業運営ができる状態が保たれるよう、介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正に対して、以下のように意見します。
■平成27 年度介護報酬改定に係る基本的な意見
■各サービスの報酬・基準に係る見直しの内容への個別意見
• 独居や認知症の利用者をケアマネジメントする場合、その業務負担は他の利用者に比べて格段に重くなります。報酬が包括化されてもケアマネジャーの業務負担が減るわけではなく、実態に見合ったものではありません。これによって独居高齢者加算と認知症加算が多かった事業所は業務負荷が大きい上に収入が減り、少なかった事業所は業務負荷なく収入が増加するという矛盾が生じています。また、インセンティブがなくなることで、志のある事業所だけが独居や認知症のプランを受けることも考えられ不平等感がでます。実態に合わせた報酬体系に戻すことが必要と考えます。
• 複数の事業体がある事業所では、内部で密に連携をすることができるため、一律に特定事業所集中減算の対象とするのではなく、利用者のサービス向上につながったことを評価し、集中減算から除外することができる仕組みとしてください。
・財務省が試算した介護サービス毎の収支差率の信憑性、業種の異なる中小企業の収支差率2.2%との比較に疑問を拭えない状況下で、身体介護で3.5~4.0%、生活援助で4.2~4.7%の報酬減算とされました。特に加算の取得できない小規模事業所では、今回の改定の指標とされた7.4%も収支差が出ていないのが実態です。この基本報酬の見直しは、たすけあい活動を母体に訪問介護事業を作ってきた生活協同組合や、同じ志で取り組んできたNPO法人などの小規模事業所の事業存続の危機です。各事業所の実態を把握し、基本報酬を減らすのではなく、適正運営以外の事業者への減算をすべきです。
• パルシステムのほとんどの通所事業所では、利用者が在宅でくらすことを支えるため、ケアに自立支援・生活リハビリ・認知症対応等を取り入れ、丁寧に実践してきました。今回のように財務省が平均収支差率の加重平均値、通所介護事業平均10.6%を基準として一律に基本報酬を下げられた場合、前述の利用者のためのケアを実施している事業所では、手厚い人員配置等によって10.6%も収支差が出ていない実態になっており、小規模事業所では存続が厳しい状況です。これらの利用者のためのプラスアルファのケアをやめるなど検討しなくては、事業を存続できません。各事業所実態を把握し、一律に基本報酬を減らすのではなく、適正運営以外の事業者への減算をすべきです。
• 現状、要件を満たすための研修を受けられるだけの体制がなく、加算を取得できません。この研修体制を整備が間に合わない場合に備え、経過措置を要請します。
• 介護職員処遇改善加算において、収入が増加しているように見えますが、基本報酬が下げられ、加算の創設がほとんどなく、大きく収益が減少し、ほぼ収益がなくなる状況にあります。グループホームは事業規模が小さく、1名の入院・退所などで稼働率が大きく低下します。収益がほぼなくなる状況で、このような事態に陥れば、事業継続はままなりません。これから、認知症の方が増え、ますます必要性高まることから、現状を踏まえた報酬体系を要請します。
• 特に予防通所介護の基本報酬は、現状の収支差から今回の報酬に移行すると考えると、新規に予防の利用者を受け入れることは現実的に不可能です。このままでは、地域にサービスを提供する事業者がいなくなると安易に想像することができます。これでは、予防サービスの利用者にサービスが提供できず、予防状態から要介護状態に悪化する人が増えるなど、国が目指す方向とは逆に作用するのではないかと懸念しています。
• 介護職員の賃金が1万2千円アップすると大きく報道され、期待が寄せられていました。しかし、既に介護職員処遇改善加算を取得している事業所が、現状の要件そのままに加算を取得した場合、現状の加算率とあまり変わらず、混乱を招くことが懸念されます。
• 例えば、通所介護事業所の場合、現在の介護職員処遇改善加算は1.9%、2015年度現状要件のままで申請した場合は2.2%、0.3ポイント分しか上がらず、事業者側の健康保険料等の社会保険料の負担分を差し引くと、実際の手取り給与にあてられる金額は報道されて期待されていた1万2千円とはほど遠くなります。報道と実態が大きくかけ離れた報酬改定は、介護職員にとっては期待を裏切られたと感じます。そうならないようにお願いします。
• 実際の地価や賃金に見合った地域区分になっていないのではないでしょうか。東京都の最低時給・地価との兼ね合いや、特別区に隣接する千葉県や埼玉県の市町村における地域区分の在り方は疑問があります。このままでは、特別区隣接の市では職員が特別区にとられ人材不足に陥り、最低時給や地価が高い都心部では事業存続が厳しくなります。公平性のある地域区分になるように、検証をした上で区分設定してください。
以上