厚生労働省の介護保険制度改正省令案へパブリックコメントを提出 誠実な介護福祉事業が担保できる制度を求めます

2014年12月25日

パルシステム連合会は12月25日(木)、厚生労働省による介護保険制度の改正省令案に対し、パブリックコメントを提出しました。改正により事業所の負担増とケアの質低下が懸念され、誠実な事業運営が維持できる制度を求めます。

 

厚生労働省は2014年12月1日(月)、2015年度に予定する介護報酬改定とあわせて、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(仮称)案」をとりまとめ、国民からの意見(パブリックコメント)を募集しました。パブリックコメントは、行政機関などが新たな政策や規則などを定める際に、国民から広く意見を募集する手続きのことです。

パルシステム連合会では、介護職員の賃金改善は歓迎しますが、雇用元となる事業所の存続性や、経営改革に伴う業務負荷によるケアの質低下などが懸念されると考えます。質の高いサービス提供とスタッフの生活保障など、誠実な事業運営ができる状態が保たれることを求め12月25日(木)、パブリックコメントを提出しました。

パブリックコメントで要求した主な内容は、以下の通りです。

  1. 運営推進会議の設置に反対します。
  2. 介護予防通所介護が総合事業に移行するにあたり、専門性を発揮するデイサービスへの報酬上の評価をするよう地方自治体に対し指導すべきです。
  3. ケアマネジャーのスキル向上に取り組む事業所を支援してください。
  4. サービス提供責任者の配置基準緩和(利用者50人に対して1人以上)に反対します。
  5. 総合事業への移行にあたり、現在の利用者の生活基盤維持と、事業継続できる仕組みを要請します。
  6. 福祉用具専門相談員の知識修得及び能力の向上における加算等の評価を要請します。
  7. 認知症対応型共同生活介護事業で規定されているユニット数の標準にある「新たな用地確保が困難である等の事情」について具体的な範囲・基準を明確にしてください。

提出したパブリックコメント全文は以下の通りです。

2014年12月25日
厚生労働大臣 塩崎恭久 殿
2015年介護保険改正に対する意見(案)
~指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を
改正する省令(仮称)案(概要)に対するパブリックコメントに対して~
パルシステム生活協同組合連合会
理事長 山本伸司

 私たちパルシステムグループは首都圏140万世帯の組合員を擁する生協です。これまで、くらしを支えるという視点から組合員への商品供給だけではなく、介護保険事業にも取り組んでいます。私たちグループの介護職員は、協同組合の志を持ち、利用者の視点にたったケアを真摯に実践しています。

 先日、介護報酬について、介護職員に対する賃金改善と介護報酬を9年ぶりに引き下げる政府の方針が示されました。介護職員の賃金改善は、処遇改善を望む私たちグループでは歓迎しています。しかし、その他の2015年改定は、雇用元となる事業所の存続危機や経営改革に伴う業務負荷によるケアの質低下など、懸念が絶えません。また私たち同様に介護事業に取り組む諸団体においても、厳しい現状に置かれるため、利用者にしわ寄せがいくのではないかと心配しています。

 今後とも、利用者に対する質の高いサービス提供、介護にあたるスタッフの生活保障など、誠実な事業運営ができる状態が保たれるよう、省令案に対して意見します。

■通所介護/認知症対応型通所介護について

【具体的な改正内容】
<3.通所系サービス(1)通所介護>
① 平成28 年度に地域密着型通所介護が創設されることに伴い、地域との連携や運営の透明性を確保するための運営推進会議の設置など、新たに基準を設ける。
<8.地域密着型サービス(5)認知症対応型通所介護>
② 地域との連携や運営の透明性を確保するため、平成28 年度から「運営推進会議」の設置を義務づける。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○運営推進会議の設置に反対します。
・運営推進会議は地域連携等に一定の効果があることは認めますが、小規模デイサービス及び認知症対応型デイサービスの介護スタッフは必然的に少数であり、一定以上の介護報酬が保障されなければ増員しにくい事業形態です。その中で、介護スタッフの負担(業務・労務負担)が増える今回の改正案ではサービスの質の低下につながるものと考えられます。
・設置を義務付ける場合、その労務に見合う介護報酬を設定すべきです。

【具体的な改正内容】
<3.通所系サービス(1)通所介護>
④ 介護予防通所介護が総合事業に移行する際に、必要な経過措置を設けるなど、所要の措置を講ずる。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○介護予防通所介護が総合事業に移行するにあたり、多様なデイサービスが想定されます。専門性を発揮するデイサービスへの報酬上の評価をするよう地方自治体に対し指導すべきです。

■居宅介護支援について

【具体的な改正内容】
<1.居宅介護支援>
① 居宅介護支援事業所と指定居宅サービス等の事業所の意識の共有を図る観点から、介護支援専門員は、居宅サービス計画に位置づけた指定居宅サービス等の担当者から個別サービス計画の提出を求めることとする。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○ケアマネジメントを適切に行うことにより、利用者は自立した生活がうながされることから、ケアマネジャーのスキル向上に取り組む事業所を支援していただきたい。
・介護支援専門員は居宅サービス計画に位置づけた指定居宅サービス等の担当者から個別サービス計画の提出を位置付けることは、これまでの曖昧であった介護計画の実質的な実践につながるものと考えており、歓迎するものです。
・個別性の高いサービス計画をたてていくにはケアマネジャーのスキル向上が欠かせません。しかし、国、厚生労働省が求めるようなケアマネジャーの育成には、研修体系などの充実が不可欠です。今回の収支差率調査結果でわかるとおり、居宅介護支援事業での研修費の更なる捻出は厳しい状況です。自助努力も必要ですが、介護保険制度の中で、質の向上が図れる体系を考えていただきたい。

■訪問介護について

【具体的な改正内容】
<2.訪問系サービス(1)訪問介護>
① 複数のサービス提供責任者が共同して利用者に関わる体制が構築されている場合や、利用者情報の共有などサービス提供責任者が行う業務の効率化が図られている場合には、サービス提供責任者の配置基準を利用者50 人に対して1人以上に緩和する(介護予防も同様)。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○サービス提供責任者の配置基準緩和(利用者50人に対して1人以上)に反対します。
・人員基準の緩和により、人件費の削減と1事業所において障害者を含めた多彩なサービス提供が可能になりますが、日常的な業務量からして困難が予測されます。
・サービス提供責任者が役割を果たした場合、利用者40人を受け持つことさえ難しいのが現状です。グループ内の事業所が同じ状況にあります。その中で50件まで可能にした場合、サービス提供責任者は業務量が増加し、本来のすべき役割にまで手が回らなくなる可能性が大きく、それが利用者へのサービスの質低下につながることから、この改正案に反対します。

【具体的な改正内容】
<2.訪問系サービス(1)訪問介護>
② 訪問介護事業者が、訪問介護及び介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)における第一号訪問事業を、同一の事業所において、一体的に実施する場合の人員、設備及び運営の基準については、訪問介護及び介護予防訪問介護を一体的に実施する場合の現行の基準に準ずるものとする。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○総合事業への移行にあたり、現在の利用者の生活基盤が維持されるように要請します。
・サービス責任が地方自治体に移った後、サービス内容や利用者負担、報酬などの総合事業で地域格差が生まれないように、また介護保険と総合事業とが一体的にサービス提供できるように、各自治体と密に連携をとり、体制整備いただきたい。
・予防の利用者が受けてきたサービスは、生活の基盤となっており、同様のサービスが移行後も維持されるように計らうべきです。これは、サービスが途切れることで、更に介護度が増すことも十分に考えられ、介護保険が進めてきた“支援することで自立した生活を送る”という理念に逆行し、更なる社会保障費の増加にもつながりかねません。

○事業継続できる仕組みを要請します。
・総合事業のガイドラインでは、A型・B型のサービスが示されましたが、上に記載した通り、利用者の生活基盤を確保するためにもサービス量確保は必然です。介護保険事業者が、現事業の延長上で取り組むことができるなど、事業継続できる仕組みづくりをお願いします。

■福祉用具貸与・特定福祉用具販売について

【具体的な改正内容】
<7.福祉用具貸与・特定福祉用具販売>
① 福祉用具専門相談員の指定講習内容の見直しを踏まえ、現に従事している福祉用具専門相談員について、福祉用具貸与(販売)に関する必要な知識の修得及び能力の向上といった自己研鑽に常に努めることとする。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○福祉用具専門相談員の知識修得及び能力の向上における加算等の評価を要請します。
・福祉用具専門相談員は在宅生活を支える中で、重要な役割を占めており、この改正案に賛成するものです。しかしながら、自己研鑽のみではなく、加算などの評価検討を要請します。

■認知症対応型共同生活介護について

【具体的な改正内容】
<8.地域密着サービス(4)認知症対応型共同生活介護>
① 認知症対応型共同生活介護事業者が効率的にサービスを提供できるよう、現行では「1又は2」と規定されているユニット数の標準について、新たな用地確保が困難である等の事情がある場合には3ユニットまで差し支えないことを明確化する。

 上記改正内容に対し、以下のように主張します。

○「新たな用地確保が困難である等の事情」について具体的な範囲・基準を明確にしていただきたい。

以上